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次第に泣き声が小さくなる。
ようやく顔を上げた夏美は、真剣な眼差しをこちらに向けた。
「⋯⋯健吾と付き合い始めた頃にね、連絡があったの。あの人から」
「大学の時の、アイツだよね」
「そう。俺が悪かったって謝られて。ヨリを戻さないかって」
「それで、夏美はどうしたの」
「断ったよ、もちろん。もう健吾と真剣に付き合ってるからって、ちゃんと話して」
「なのに、それからも連絡を取ってた」
「違う。それ以降は途絶えたの。でも半年前に、結婚することになったから二次会に来てほしいって、電話が来て」
「そんなの、断ることもできたのに」
夏美が目を伏せる。
「⋯⋯ショックだった」
「アイツに未練があったから?」
「そうじゃない。許せなかったの」
「許せなかった?」
「電話であの人が言ってた。本当は、わたしと結婚したかったって。だから、結婚式が終わったら、嫁に内緒で会おうよって」
「なんだよそれ⋯⋯」
「許せないと思った。付き合ってた時もあんなに傷つけたのに、また私を侮辱して傷つけるのかって」
「相手にしなければよかったのに」
「たぶん⋯⋯ずっと不安だったから」
「夏美⋯⋯?」
「健吾と付き合い始めて5年経つのに、彼女として誰にも紹介してくれなかったよね。それに、いつも健吾が『何にも縛られずに、ずっと二人でいようね』言うから、私と結婚したくないんだろうなって思ってた。だから、あの人から結婚するって聞いて、なんかショックだったの。でも、それを健吾に言えなかった」
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