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「そんな自分にまたイライラして。⋯⋯だからいっその事、二次会に行って、あの人の女癖が悪いことを話して、全部ぐちゃぐちゃにしてやろうと思ったの」
再び、目に涙を浮かべ、それまでの言葉を打ち消すように首を振った。
「でも、できなかった。会場の入口に着いたら、急に手が震えてきちゃって」
「えっ。じゃあ、今までどこにいたの?」
「『カナリア』に行ってた」
夏美は、俺たちが出会った『カナリア』にその足で向かい、この時間まで、マスターに話を聞いてもらっていたのと言った。
「マスター、元気だった。健吾にも会いたがってたよ」
「そっか。夏美、大丈夫か?」
「うん。もう平気。あの二次会に、ずっとモヤモヤしてたもの全部、置いてきたから」
心に引っかかっていたトゲを、自分の手で外すために、二次会へ行ったのか。
すごく弱いのに、すごく強い。
これまでも何度か、夏美の持つ強さに、俺自身救われることがあった。
夏美の頬にそっと触れた途端、俺の大好きな、カラフルな笑顔に変わる。
「ねぇ、夏美。今度の休み、『カナリア』に行かない?」
「いいよ。マスター、喜ぶだろうな」
「それで、結婚の証人をお願いしようよ」
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