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ピーピー ピロロロロ。ピーピー ピロロロロ。
「やだ。もう、こんな時間」
音が鳴る方に目をやる。
寝室の白い壁紙と同化した掛け時計が、時を告げた。黒い針が蓄光になっていて、昼夜問わず、その動きだけがよく見える。
一緒に暮らし始めた二年前に購入したもの。
鳥のさえずりが時間を知らせてくれる珍しさに目を引いた。14時ならば、小さな小窓から黄色い鳥が顔を出して、二度鳴く。
――お願い。この時計がいいの。
夏美がこちらをじっと見つめて言った。
俺は驚いた。それまでに見たことのない夏美の表情が目の前にあったからだ。
不思議に思って、「なぜこの時計がいいの?」と夏美にたずねてみた。
すると「カナリアはわたしたちの始まりだから、付き合い始めた頃の気持ちを忘れないように」と耳を赤く染めた。
真面目で物静かな夏美が時々見せる、些細なこだわりが愛しかった。
部屋のカナリアは、あの頃と変わらず、二人の時間を正確に知らせてくれている。
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