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夏美の背中のファスナーを、わざとゆっくり上げながらたずねる。
「これから、どこいくの?」
「あれ? 健吾に言ってなかったかな。結婚式の二次会があるって」
「聞いてないよ。俺の知ってる人?」
「あぁ、うん。⋯⋯大学のサークル仲間」
なんだろ⋯⋯。
返事までの、ほんの数秒の間。
その”間”の理由に心当たりがある。
「上がったよ。ファスナー」
細い夏美の腰にするりと両手を絡め、軽く抱き寄せて首元に顔をうずめる。
香りがいつもと違う⋯⋯。
昔に付けてた香水に似てるような。
最近はシャンプーの香りだけなのに。
「どうしたの。健吾」
「⋯⋯帰って、くるよね」
「やだ。寂しいの? 三次会は行かないつもりだし、早めに帰ってくるから」
「その結婚するヤツってさ⋯⋯」
さっきから胸騒ぎが静まらない。
次第に鼓動が速くなっていく。
こういう時の俺の予感は、残念なことに、的中する確率が高い。
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