永遠結び

密やかな週末

「まさか、あの男じゃないよね」
「えっ⋯⋯」
「やっぱ、そうなんだ。なんで？」

　俺の突然の語気の強さに動揺を見せた夏美は、本心を隠すように無言で目をそらす。
　その仕草からは”拒絶”の色も感じとれた。

　すると、これまで必死に平静を保とうとしていた俺の感情に波紋が立ち始め、広がった波が耳の奥でぱちんと弾けるような音を立てた。

　その瞬間、理性も形をなくす。
　次に我に返った時には、夏美をベッドに押し倒し、唇を乱暴に奪っていた。

　なのに夏美は抵抗もせず、されるがままに身体を委ねていた。もう心は揺らがないという強い意思表示のように。

　何か言ってくれ。
　言い訳をして、誤解を解いてくれよ。

　不安。不満。悲哀。沈痛。
　身体の内側がえぐり取られるような視線。
　意識しないと呼吸もまともにできない。

――止めても無駄ってことか。

　喉元から出かけた「行くな」というたった三文字の言葉を、腹の奥へと押し込んだ。

「ごめん⋯⋯」

　寝室の息苦しさから逃げるように、よろよろと隣の部屋へ向かう。静かに閉めた扉にもたれ掛かると、深い憂いの息が出た。