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相手に女の影があることは、以前から薄々気付いていたらしい。傷付くことを恐れて、話し合いを持ちかける勇気もなく、自分から去る選択肢すら選べなかったそうだ。
たぶんそいつは、夏美だけでなく、自分以外の誰も愛せないのだろう。哀れな奴だ。
なのに、心が離れていると知っていたにもかかわらず、最後まで相手を擁護していた。「わたしが悪いんだから」と。
辛く苦しい目に遭わされた彼女の方が、相手の存在に縛られ続けるなんて理不尽だ。
だが、俺にできる事といったら、気持ちのやり場に苦しむ夏美のそばにいてあげることくらいだった。
あの男の残像が夏美の心から消えかけた頃、ようやく伝えられた俺の夏美への思いに、微笑み、頷いてくれた。
――それなのに。
完全に消えたと思っていた存在が、夏美の中にどのくらい残っていたのだろうか。
俺がこの目で見てきた夏美はどの部分で、どこからが俺の知らない部分なのか。
今の夏美の目に映るものは何なのか。
どんな気持ちを持ち続けたら、アイツの二次会に行こうと思えるのか。
まだ、未練があったのか。
新郎新婦の姿を見て何を思うのか。
疑問が次々と浮かんでは消える。
しまいには、これまでずっと夏美とあの男が、俺の知らない所で繋がっていたんじゃないかという疑念まで浮かんでくる。
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