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【僕のことを覚えていますか?】
私が夜一人で自室にいると、スマホの通知音が鳴って画面にSNSのポップアップ通知が表示された。
送信者のアカウント名はまったく見覚えのないものだった。
「誰だろ? フィッシングかな?」
私は警戒して、そのメッセージを開かずに放置しておいた。
すると、少しの間があってからピロリンとまた音が鳴って、メッセージが表示された。
【初めて貴女を見たのは、今から3ヶ月前のことでした】
「なんなのこの一人語り。キモッ」
ポップアップ通知がうっとうしかったので、私はトークルームを開いてみた。
ピロリン♪
【ああ、やっと開いてくれましたね。嬉しいです】
「うわ、すぐ気付いた」
声に出したら同時にまた音が鳴り、新たなメッセージがトークルームに表示された。
【店に来た貴女を見た瞬間、僕は激しい恋に落ちました。こんな綺麗な人と触れ合えたら、きっと毎日が幸せだろうとワクワクしました】
「まあ、悪い気はしないかな」
私が画面を見つめていると、メッセージが2通続けて来た。
【でも悲しいことに、その日貴女は最後まで僕に気付きませんでした。僕はいつか貴女に再び巡り合える日を信じて、店で待ち続けるしかありませんでした】
「へえ、そんな人いたんだ。知らなかった」
数か月前の記憶自体おぼろげになっていたので、まったく心当たりがなかった。
【そして今から2週間前、とうとう奇跡が起きました。貴女がまた店に来てくれたのです。僕の胸はこれ以上にないくらい大きく高鳴りました】
「どの店とかも全然覚えてないし。そんなに嬉しかったんなら、別に声かけてきても良かったのに」
まんざらでもない気分で呟くと、また立て続けにメッセージが届いた。
【僕から声をかけることは許されませんでした。でも、貴女は僕の頬を撫でて優しく微笑んでくれました。だから今こうして、僕は貴女とトークできているのです】
「頬を撫でて優しく微笑んだ? なに言ってんのコイツ?」
そんなこと2週間前どころか今まで誰にもした記憶はない。
ピロリン♪
【貴女の寝顔が近いと今もドキドキして、夜も眠れません】
「妄想ヤバすぎ。なんかストーカーになりそうで怖いわ」
ピロリン♪
【貴女を想うと、いつも体が熱くなります】
「やっぱキモいわ、ブロックしよ」
ピロリン♪
【ブロックしないで。悲しくて涙が出ます】
「もう、先読みしてこないでよ」
ピロリン♪
【なぜ覚えていないのですか? 今も貴女の一番近くにいるのに】
「え? どういうこと?」
ピロリン♪
【もう我慢できない。僕の部屋にご招待します】
私の手の中で熱く湿ったスマホが、いきなり眩しい光を放った。
☆ ☆ ☆
ピロリン♪
【やっと来てくれましたね。僕のこと覚えていますか?】
〖ここから出して〗
ピロリン♪
【僕のこと覚えていますか?】
〖お願い出して〗
誰もいない部屋の中、スマホの通知音と点滅する光が止まらない。
覚えのないトークルームの中、彼らのトークも止まらない。
〈了〉
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