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その日は、閉店時間を過ぎた後もマスターの許可を貰って、里奈さんと二人で本を読み耽った。 もちろん、ただ本読みを楽しんだ訳ではない。 里奈さんの想いを届ける至極の一編――。 それを求めて店内の詩集本を集めて、二人で読み込む。 その結果、二人の前に詩集本が(うずたか)く積まれて行く。 一時間、二時間と時間が静かに過ぎて行く。 互いにこれはどうかという詩を見つけては、意見を交わして検討してみるものの、里奈さんにとって『これだ』という詩は中々見つからない。 里奈さんの伝えたい想いってどんな感じなのだろう……? 「ねぇ、里奈さん。香山さんに伝えたいことって言うか、里奈さんの今の気持ちってどんな感じなの?」 「う~ん、難しいよね。好きな気持ちって言葉で表すのは意外と大変かも。単純に言ったら……側にいて時間を一緒に過ごすことがどうしようもなく居心地がいいこととか……かな」 「それって、ここ二ヶ月の間二人が『Books』でしてきたことですよ」 「あっ、そっか。そうだね。まあ、香山さんもそう感じてくれてたらいいんだけど。そっか、今までしてきたことが幸せだったのかもね。何だか可笑しいね」 私達は詩集本の山を挟んで、含み笑いを交わした。 その後も黙々と二人で詩集本を読み込み、日付けも変わろうかという頃には、目に疲労感が広がり睡魔にも襲われ始めていた。 その時、里奈さんが眠気の欠片(かけら)も感じさせない、はっきりとした声を発した。 「これ、これだわ。有りの(まま)の私を伝える詩はこれしかない」 それは(つぶや)きなどではない、思いの外大きな声だった。 まるで、里奈さんの決意表明のように。 里奈さんは私に開いた本のページを見せ、ずっと捜していた忘れ物を見つけたような、笑顔を浮かべた。 里奈さんの指し示す一編の詩、それを一読して思った。 『二人にぴったりだ……』 私は率直に『里奈さん、可愛いな。きっと届くよ』そう思った。 香山さんに想いを伝える詩は見つかった。 後は何時(いつ)どうやって伝えるか、だった。 私が聞いていた工事の最終日まであと四日しかない。 その間に香山さんに伝える為には、私から香山さんに来店してもらうよう伝えるしかないと思い、里奈さんに提案した。 里奈さんも同意してくれると思ったけど――、違った。 「運を天に任せるわ、私。香山さんが自分の意志で来る選択をすると信じて」 私は何度か説得したが、里奈さんの気持ちは変わらなかった。 私達は天気の神様――、そんな神様がいればだけど、その神様に祈るしかなかった。 『どうか、雨を降らせて……欲を言えば、どしゃ降りのを――』
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