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レンタル彼女・・・?
あれは――今から二ヶ月前、まだ桜が花を付ける為、その蕾に生命の力を満たそうとしている頃の事…。私、澤村美鈴は焦っていた。
毎年『今年こそは変わるんだ』そう決意しては踏み出せず――挫折。それが高校生の頃から繰り返してきた日常。今年こそは、と意気込むものの何に踏み出したらいいのか分からなかった。
そんな時、ある日見ていた情報番組に衝撃を受けた――まるで体の中を電流が走ったみたいに。
『レンタル彼女』って何よ?え?初めて会う人とお喋りしたり、食事したり…それってデートって事?
『私には無理――』そう思った。幼い頃から人見知りが激しく、まともに他人と話す事など出来なかったから。
『無理、無理、無理――私には…』ベッドに倒れ込み、頭から布団を被り布団の中で丸くなる。
でも、寝付けなかった。それくらい衝撃を受けたんだから…。
『もしも――もしも、そこに飛び込んだら、どうなるの?そこには私に欠く何かがある?』
春先の、夜明け前――まだ空気が冷たい部屋。私は――あるレン彼事務所サイトのキャスト募集欄をクリックした。
その時、少し震えていた指先の感覚を今も覚えている。
キャスト募集はサイトに載っているフォームに入力して送信するだけ、というもので、呆気無い程簡単に終わった。あまりの手軽さに送信をクリックした後『私、ホントに申し込んじゃったよ』と現実に戻ってちょっとの間呆然とした。
でも、まだ受かって採用されると決まった訳じゃないし…そう、思っていた。 だけど、二日後――私はもっと大きな現実を突き付けられる事になった。
【澤村美鈴様、一次審査に合格されたのでお知らせ致します。指定の日時に弊社事務所にお越しください。】
『へ?合格?嘘でしょ?』半分は嘘であって欲しかったのが本心。でも、もう前に進むしかなかった。
そして、面接を受けていよいよ採用されたのだけど、ここからが大変だった。
『レンタル彼女』は依頼主である『彼』にホスピタリティー溢れる最高のサービスを提供する――勿論、定められたルールの範囲の中でだけど。
その為に身に付ける事、学ぶ事、覚える事が半端無く多かった。これは私が教わったトレーナーの片平さんから後に聞かされた事だけど、沢山の研修を積むのは、それが必要なのは当然としてもう一つ別の理由があるそうだ。
それはこの仕事が『男性とデートするだけでお金が稼げる』なんて考えで来る人を篩に掛ける為。
確かに風俗店と違い、性行為無しで時給五千円以上の収入は女の子にとって魅力的だと言える。
「どんな男性も楽しませ、癒す事って大変な事だから安易な気持ちの子は続かないし、顧客も満足しない。事務所もそれでは成り立たないの」
トレーナーとしてレン彼に必要な事を教育してくれた片平さんは諭す様に私に話してくれた。
そこから私と片平さんのレン彼教育期間が始まった。気遣いやマナー、守秘義務上の注意点等を座学で学び、相手に合わせたメイクや服装等のレクチャー、実際の応対――笑顔の作り方、ではなく魅せ方はどうするか、等々学ぶ事は多岐に亘った。
私は昔から人見知りが激しくて、人付き合いが出来なかったから、普通の人の倍は教育に時間が掛かった。それでも根気強く私に教えてくれた片平さんのお蔭で少しずつ、階段を登る様に私は自分を変えて行く事が出来た。
そして遂に自分のプロフがサイトにアップされる日が来た。
これからどんな日常が待っているのだろう…?
どんな出会いがあるのだろう…?
私は自分を変えられるのだろうか…?
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