スカウト

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ここまで来て森川さんは「分かってもらえたかしら?」と動画を止め、私の様子を覗う。 「新しい薬がすごいって事と、四葉のクローバーが足りないって事は分かったんですけど、イマイチ信じ切れないというか・・・。」 「そうよね、でもこれは事実なの。 私も去年の夏はずっとクローバーを探して日焼けした。 それでも1日に1本も見つけられない事があったわ。」 そう言って森川さんはスマホで写真を見せてくれた。 それは日焼けで顔が真っ赤になった森川さんが四つ葉のクローバーを持って微笑んでいる姿だ。 こんな仕事できそうな人が「クローバー探して日焼けする」姿が想像できなかったが、目の当たりにして思わず「本当だ」と声が漏れる。 「そこで、奈美さんにお願いがあります。 もう感づいているかと思うけれど。 うちの会社で働いていただけませんか?」 確かに、勉強はあまり好きじゃ無かったから「高校卒業したら地元で就職しよう」って思っていたけど。 こんな仕事って、どうなんだろう? そもそもこの人、信用出来るのかな? 私が困っている事を察して森川さんは言った。 「急にこんな事言われても困っちゃうよね。 実はね、もう同じ仕事をしている人は何人かいるの。」 「え?そうなんですか?」 私はパッと顔を上げる。 「奈美さんと同じ能力の持ち主を、SNSで探して、スカウトしているの。 採用された人は『新薬部 研究室 研究作業員』ていう肩書きで・・・あ、もちろん、正社員でね、働いてもらっている。」 私と、同じ人が他にもいるんだ。 「何人くらいいるんですか?」 「ごめんなさいね、それは社外秘だから言えないの。でも、10人よりは多いって事だけは教えられるわ。」 「そんなに・・・。」 「社員寮もあるし、給料もきっと満足してもらえる額よ。」 「高卒だと大体13万とかなんですけど・・・。20万とかですか?」 「ううん、35万円。」 私は額を聞いてびっくりした。 たたみかけるように森川さんは「ボーナスはもっとすごいから」と笑っている。 でも、最後は優しく言った。 「もちろん、奈美さんの人生だから無理強いはしない。是非、前向きに・・・」 「やります。」 「・・・え?」 「働かせてください!」 「いいの?少し考えてみてからでも・・・。」 「勉強も好きじゃ無かったし、高卒でそんなに給料のいい就職は絶対にできないですもん。」 それに・・・。きっと「製薬会社の研究室で働いてる」なんて、両親も鼻が高いはずだ。 森川さんは「ありがとう。」と私の手を握り、「これからもよろしくね。」と言った。 「はい、よろしくお願いします。」 唯一の私の特技にこんな需要があったなんて。 さっきまでとは違う、今までに感じた事が無いほど胸の高鳴りを感じた。
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