スカウト

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スカウト

「私、四つ葉のクローバーって、わざわざ探した事無いんだよね。」 高校の駐輪場の入り口で、急に立ち止まった私を、怪訝な表情で友人の佐和が見つめる。 「なに?急に。」 私は足下にあった四つ葉のクローバーをプチンと取ると佐和に見せた。 「ほら、あった。」 元々大きな佐和の目が更に大きくなる。 「えー!すご!」 「ちなみに、そこにもあるよ。」 佐和の足下を指したが、佐和は見つけられずにキョロキョロしている。 私がまたプチンと取って見せると佐和の目は再び大きくなった。 成績も、顔面偏差値も、すべてにおいて「普通」の私に一つだけある特技がこれだった。 「奈美、クローバー少女じゃん。」 「クローバー少女?」 私たちは自分の自転車を探しながら話を続けた。 「前、テレビでやってるの見たの。めっちゃクローバー見つける子。 クローバーの声が聞こえるんだって!」 「えー?どんな声?」 「わかんないけど『ココダヨー』みたいな? 声のする方に行くとクローバーがあるの! 他の人も一緒に探したけど、普通の人が1個見つける間にクローバー少女は10本以上見つけてた!」 先に自分の自転車を見つけた佐和が、スクールバッグをカゴにボン、と入れる。 遅れて私も自分の自転車を見つけ、バッグをかごに入れた。 「もしかして、奈美もクローバーの声が聞こえるの?」 佐和は子どものようなキラキラした瞳で私を見つめる。 (凄く期待してるよね・・・。ごめん。声は聞こえない。) どうやって説明すればいいか少し考えてから私は答える。 「私は声が聞こえるわけじゃ無いんだけど、気配?視線?を感じるんだよね。」 「えー!何それ、めっちゃスピリチュアルじゃん。 SNSにあげていい?」 佐和は嬉しそうにスマホを取り出す。 あまりSNSが得意で無い私は「えっ?何を?」とちょっと引きながら聞いた。 その点を、ちゃんと佐和は心得ている。 「大丈夫!奈美の顔や名前はのっけないから!四つ葉のクローバーの写真と、『友達がクローバー少女』って!」 私はそれ位なら、とホッとしつつ言った。 「いいよ。はい、クローバーもあげるね。」 「わ~い、ありがとう!」 クローバーを受け取った佐和は嬉しそうに写真を何枚か撮り 「じゃ、アップしまーす!」 と言った。 その数分後、沢山の「イイネ」とコメントが付いているのを見せてくれた。 「え~、すごい。佐和はSNSでも人気者だね。」 「いや、普段はこんなにつかないよ!四つ葉のクローバーって結構キャッチーだったんだね。」 この何気ない行動がすべての幕開けだった事を、まだ私は知らない。
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