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片想いの肖像~その2
「あんた何か分かったんでしょ!教えなさい」
紀里香が去った教室で、美乃は凪に詰め寄った。
少年は不思議そうに小首を傾げた。
「ごまかしても駄目よ!あんたがあんな目をする時は絶対何かに気づいた時なんだから」
「美乃さん、よく見てるんです……ね」
だから何で語尾だけ遅れるのよ!
心中でツッコミながら、美乃は顔を真っ赤にした。
「ば、ばか言ってんじゃないわよ!な、何であんたなんか……」
「……とりあえず、行ってみましょう」
言い訳を並べ立てる美乃を残して、凪はフワフワと戸口に向かった。
「あ、ちょっと……待ちなさい!」
我に帰った美乃は、怒声を浴びせながら後を追った。
************
B棟にあるのは理科実験室、調理実習室のみで建物はさほど大きくない。
そのため授業の無い日は、完全な無人エリアとなる。
恐らく盗撮魔は、このことを知った上で紀里香を呼び出したのだろう。
つまり犯人は、授業の時間割を知っている者という事になる。
紀里香の言ったようにそれが山広智也だとすれば、犯人である条件はクリアしている訳だ。
凪と美乃はその校舎裏に立っていた。
「あの辺りから覗いてたのね」
そう言いながら、美乃は校舎の角まで歩いた。
「で、一体何を見つけたの?」
金魚のフンのように付き従う凪を睨みつけて言った。
「はぁ」
凪が眠そうに答える。
「…………」
美乃は続きの言葉を待った。
「はぁ」
「…………」
「はぁ」
「…………」
「は……」
「いや、それはいいからその次!」
「あ」
「誰が『は』の次を言えと言った!あんた遊んでるでしょ!」
胸ぐらを掴もうとする美乃の手を掻い潜り、凪はくるりと背を向けた。
空振りでよろける少女を尻目に、突然駆け出す。
フヌケ大王の必殺技、『蒟蒻走り』が炸裂した。
くねくねと無駄に揺れながらも、やたらと速い。
「あ、こら!待てこの野郎っ!」
少年と接するようになってから、日増しに過激度の増す美乃の罵声が響く。
走力の拮抗した二人の鬼ごっこは校舎の表側を通過し、先程美乃らがいた場所の丁度反対側の角まで続いた。
その間ほんの数秒──
小さい校舎だったのが幸いした。
「……ま、全く何考えてんのよ、あ、あんた!」
肩で息をしながら、美乃は凪の制服を掴んで揺すった。
凪はそこから校舎裏を覗き込むと、意味不明の笑みを浮かべ頷いた。
「とりあえず、行ってみましょう」
意外な程息の切れていない凪が、ニコニコしながら呟く。
「えっ、何……また!?」
まだ呼吸の整わない美乃は、凪の服を掴んだまま引きずられるように走った。
勉強のし過ぎで運動不足だな、こりゃ。
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