戦渦の慕情

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『パラッ』 『テルモス子爵家とロデリック男爵家の両家が治める領地でも、特に問題は起きてはいないようだな。家宰』 執務室の机の上に置かれた書類に目を通した私の確認に対して、代々家臣としてヒンデンブルク侯爵家に忠実に仕えてくれている家門に生まれた家宰は、恭しく深々と御辞儀を行い。 『はい。侯爵(フュルスト)閣下。両家の領内は平穏との報告で御座います』 ヒンデンブルク侯爵家はレムリア王国の四大名家の北方貴族諸侯領筆頭として、北方貴族諸侯領に属するテルモス子爵家とロデリック男爵家の両家の動向に目を配り、国王(ケーニヒ)陛下に対して不遜(ふそん)振舞(ふるまい)を行う兆候(ちょうこう)が無いか監督する義務があるが。 『テルモス子爵家とロデリック男爵家の両家の当主には、分不相応(ぶんふそうおう)な野心を抱く能力などは無いからな』 私の嘲弄(ちょうろう)する言葉に対して、家宰は主君の歓心(かんしん)を買う為の追従笑(ついしょうわら)いを浮かべるような真似はせずに、礼節を保ったまま無言で恭しく深々と御辞儀を行った。 『テルモス子爵家のアーサー・フォン・テルモス卿とカタリナ・フォン・テルモス女史の兄と妹は、アリスとは年が近い事もあり仲良くしてくれているがな。アーサー・フォン・テルモス卿がテルモス子爵家の嫡男の跡取りでさえなければ、一人娘のアリスの婿(むこ)にと考える将来有望な若者だ。父親とは似ても似つかぬな』 愛娘のアリスにはいずれはヒンデンブルク侯爵家を継いでもらわねばならぬので、父親として出来るだけ将来有望そうな貴族諸侯の貴公子の中から婿(むこ)を選んでやろうと考えているので、(いま)だに許嫁が決まっていない。 『我ながら娘に対して甘い父親だと思う♪』 笑いながら話た私に対して、今度は家宰も僅かに笑みを浮かべて同意した。
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