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『下がってよい。家宰』
『はい。侯爵閣下。失礼いたします』
先祖代々御仕えさせて頂いている侯爵閣下に対して、心底よりの敬意を込めて恭しく深々と御辞儀を行ってから、執務室を退出して城館のふきぬけの廊下に出ると。
『やあっ。ブンッ!』
『たあっ。ブンッ!』
『家宰様の孫のウィルヘルムは、馬術以外の武芸の修練も熱心に積んでいるようです』
侯爵閣下の執務室の扉の前で警備の任に当たっている騎士の言葉に頷き、ふきぬけの廊下から城館の中庭を見下ろすと。
『はあっ!。ブンッ。ドスッ』
『ぐへっ!』
『一本そこまで。ウィルヘルムの勝利っ!』
木剣で剣術の修練を行っている孫のウィルヘルムが、同年輩の騎士見習いの少年から一本取った様子を眺めて。
『ウィルヘルムは馬術に秀でているが、他の武芸の修練も疎かにはしない。いずれは良い軍場で初陣を飾る機会を与えねばならぬな』
レムリア王国では一代で王国を興された、建国神であらせられる英雄神様以来数百年間に渡り、王候貴族と騎士階級に生まれた男子は初陣を経験して初めて一人前の成人と認められる、尚武の気風を重んじている。
『悪い。力を入れすぎた』
『痛てて。気にするなよウィル。次は一本取ってやるからな♪』
中庭での少年達の爽やかなやり取りを眺めている私と護衛の騎士は、お互いの顔を見合せて。
『若さとは何とも羨ましい事だな』
私の言葉に護衛の騎士も、好意的な笑みを浮かべながら頷いて。
『はい。家宰様。仰せの通りだと思います』
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