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そうこうしているうちに仕事のほうは、ますます忙しくなるばかりだった。
期限付きのレンタルからサブスクへのプラン変更を希望する客が、次から次へとひっきりなしに現れるのだ。
「我が社の記憶コンテンツだが、この度本格的に、国の支援を受けることになったよ」
と、秋野は胸を張る。相変わらずの彼の暑苦しさに、僕はこっそり眉をひそめる。
「このサービスによる、自己肯定感向上の効果が認められたってことさ……高すぎる日本の自殺率の改善に、役立つっていう判断だ。国全体に資する、素晴らしい事業ってわけだな」
そういうわけか。どおりでサブスクの価格設定が安いわけだ。
国の支援があるのはまあいいが、それで仕事が忙しくなるのは困ったもんだ。
ーーー
その夜、僕はいつもどおりに帰宅した。
しかしドアを開けるや否や、僕は玄関に立ち尽くす。
いつものように壁際に座っているはずの彼女の姿が見えないのだ。
パニックに襲われた僕は、狭い部屋のすみずみを探す。トイレか風呂場に隠れてはいないかと。
そして分かったことは、彼女だけでなく、荷物一式もそっくり無くなっているということだった。
僕は携帯を取り出し、彼女にメッセージを打つ。
そして永遠にも感じた数分の後、彼女から一通のメッセージが返ってくる。
『あたしさ、ずっとあのV系バンドの話してたでしょ? 思い出したんだけど、あたしそのボーカルの彼女だったんだよね。ごめんけど、あいつとヨリを戻しにいくことに決めたんだ。』
僕が言葉を失ったままそのメッセージを何度か読んでいるうちに、唐突に、彼女からのこれまでのメッセージの全体がアカウントごと消え去った。
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