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ある梅雨の夜
「オレの、きいちゃんがぁぁぁぁぁ!」
「はいはい、めでたいよな。葵生もやっと結婚話まとまって、よかったな」
「でも、オレのじゃなくなる~」
「元々違うから。お前、とうの昔にフラレてるからな」
「なるなる、冷たい」
「いや、ホントのことだし」
宅呑みって、いいよな。
安心してクダがまけるもんな。
ある梅雨時期の夜中。
気温は低いけど湿度が高くて、エアコンはそこそこ頑張ってくれちゃってるけど、俺は窓の近くにいざり寄る。
ここが喫煙の定位置だから、カーテンは反対側に寄せているのが通常。
少しだけ窓を開けて、俺はタバコに火をつける。
禁煙する気はないけど、持ち物や部屋に匂いがつくのはあまり好きではないのだ。
ゆっくりを煙を吸い込んで、窓の外に吐き出す。
アラサー独身男が一人で暮らす部屋にしては、まあ、こぎれいにしている方だと思う。
築年数はそこそこいってる昔の団地風の建物で、壁を挟んでの隣室がないのはいいけど、エレベーターのない五階。
ほどほどにモノがあるから、変形の1DKは少し手狭だけど、気に入っている。
布団をかければこたつとしても使えるローテーブルには、今夜の宴会の残骸。
まあ、一緒に飲んでた相手は、今もまだそこにいて、テーブルに頭をのせてうだうだ言っているわけだけど。
ほぼ沈没しているから、もう、宅呑み宴会は終了ってことでいいだろう。
「うううううう、きいちゃん……」
泣いてるのかな。
鼻をすすっているけど、まあ、そっとしておこう。
きいちゃん、というのは親友。
俺と、ここでクダをまいている露木 隼の。
俺たち三人の関係を説明するなら、親友、なんだと思う。
語れば長くなるしなんだかそんな簡単にまとめていいのかって気もしないでもないけど、多分、それが端的な関係。
元々は、露木と、露木がきいちゃんと呼んでる葵生 希一が、友人関係だった。
高校で俺、梅本 成実――露木は『なるなる』などとふざけた呼び名で呼ぶけど、本当の読みは『しげざね』だ――と知り合った。
それからずっと、関係は続いている。
つかず離れずというには、少しばかり濃い関係。
煙を吐きながら、空を見上げた。
夜だから、当然暗いはずだけれど、低く垂れこめた雨雲がうっすらグレイに見える。
こんな夜を、何度か越えてきた。
梅雨時期は、俺たちにとってはあまり気持ちのいい時期ではない。
のぼっていく煙を見ながら、思い返す。
ホント、ここまでいろいろあったよな、って。
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