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葵生からの連絡
よそ見をするってことができない露木と違って、俺は自分が報われないのは嫌だと思ってしまう。
もしかしたら気持ちが移って諦められるのじゃないかなんて、期待もしてしまう。
結局は後になって違うと思うのに、寄ってこられれば断り切れずにふらついてしまうのだ。
そうやって何人かとつきあったり別れたりしながら、過ごした。
葵生も何人かの恋人を渡り歩いた。
俺と違うのは、相手は絶対に女の子だってこと。
『お前を否定はしないけど、絶対に応えられない』と、露木にそう伝えるように、恋人ができるたびにオープンに宣言する。
それなのに、露木はひたすらに葵生を想う。
バカみたいに。
俺は大学を四年で卒業して、就職した。
葵生はギリギリまで迷っていたようだけど、結局、就職を選んだ。
露木は葵生のぐずぐずに巻き込まれたようで、大学院に進むことになった。
そうやってやんわりと遠回しに葵生は露木から離れようとするのに、肝心の露木は『きいちゃんが落ち着くまでは学生でいたほうが時間の自由きくから』と、笑っていた。
進む先が分かれて、顔を合わせることが減っていく。
お互いにこうやってゆっくり離れていけば落ち着くのかなと、そう思い始めた矢先。
仕事を初めて二回目の梅雨の夜に、それは起こった。
そのころつきあっていた彼女と食事をしていたら、珍しく葵生から連絡があった。
『今夜泊めて』
そう書かれたメールに、嫌な予感がする。
彼女に断って、その場で電話をかけた。
何度かコールが聞こえるけれど、なかなかつながらない。
諦めようかと思った時に、ぷつっと音がした。
「もしもし、どうした?」
『わるい……梅本……行っていいか?』
葵生の低くかすれた声が、何かあったと教えてくる。
梅雨時分、ただでさえ鬱っぽくなる葵生を、放って置くことはできないだろう?
切り上げて帰ると伝えたら、目の前にいた彼女はわかりやすくむくれた。
「え~? せっかくデートしてるのに? ホントに相手男なの?」
しかも、あろうことか! な疑いの目を向けられて、彼女への気持ちは一瞬で冷めてしまう。
俺は友人を見捨てるような男にはなりたくないんだ。
駆け付けた待ち合わせ場所には、葵生ひとりがいた。
上着もかばんもない、仕事帰りというには中途半端な格好で、傘も持たずに、所在なさげに立っていた。
「悪いな、待たせたか?」
「……梅本」
「とりあえず、うちに行くぞ。話はあとでゆっくり聞く」
「ごめん」
タクシーをつかまえて乗り込み、住所を告げる。
ひと息ついたら、葵生が小さく震えているのに気がついた。
毎年、この時期は確かに不安定になる。
けれど今まで見ていた以上に、不安気な葵生を見て、ため息が出た。
露木、お前、なんかやらかしたな?
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