それぞれ何とかやっている

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それぞれ何とかやっている

 三人で会うことは、あれからなくなった。  露木と葵生も直には連絡を取っていないという。  もっぱら俺を通して、近況を報告しあっている感じ。 「隼がいなきゃ、生きていられなかったから……バッサリ切れなかったんだ。もっと早くにちゃんと話していたら、ここまでこじれなかったんだと思うけど……それもできなかった」  仕事帰りに、時々立ち飲み屋なんかで落ち合って、葵生と盃を交わす。 「前もそんなこと言ってたな。自分がズルいとかなんとか」 「そうだっけ? でも、そう思うよ。今でも」 「そっか」  一緒にいた時間が長すぎて、気持ちが重ならなくても、存在を忘れ去ることはできないと、葵生はこぼす。  梅雨の時期に気持ちがおちるのは変わらずで、会社勤めはフレックスタイム制のところに変わったと言っていた。  露木がいなくても、何とか生活は回して行けるようだと微笑んだのは、やっぱり梅雨の時期だった。  葵生とは外で会うようになったけれど、露木とは家で会うようになった。  露木は特に約束をするわけじゃなく、気まぐれにふらりと現れる。  今夜も急に連絡をしてきて、持参のビールをひとりでかっ食らって、酔っ払ってる。 「何とかやってるってよ」 「そっかあ……なら、よかった……」  露木は半分眠ったような状態で、ふにゃりと笑う。  露木が来ていなければ、今夜はネットで連絡を取っていた相手と、落ち合うつもりだった。  これが別のやつなら……ありえないけど例えば葵生だったなら、俺は追い返して出かけていたと思う。  なのに、約束をキャンセルして、ここにいる。  露木をバカだと思っていたけど、俺もたいがいだったらしい。 「きいちゃんさあ、梅雨の時期になるといろいろあるじゃん」  半分眠った声で、露木が言う。 「変な男に襲われたのも、おばさんが事故にあったのも梅雨だった……猫がいなくなったのも。雨が降ると怖いことがあるって、小さいときはよく泣いてた」 「ふうん」 「ホントはさ、きいちゃんはしっかりしてんだよ。オレなんかいなくても、大丈夫なの。でも、オレ、それがわかってたけど怖くてさ……焦っちゃった。焦っちゃったのはしょうがないけど、せめて梅雨じゃなかったら、きいちゃん、今でもオレと会ってくれてたかな」 「なにやったの、お前」 「壁ドン」 「は?」 「壁ドンして、ちゅーした。怖がらせちゃった……でも、好きだってちゃんと言いたかったんだ。小さいときの延長じゃないよって。オレ、ここにいるよって、ちゃんと、オレを見てほしかったんだ……きいちゃんに優しい誰でもいい誰かじゃなくて、オレがいるんだよって……」  むにゃむにゃと、くぐもった声で露木が言葉を紡ぐ。  外は静かに雨が降っているようで、ぽつんぽつんと雨どいから落ちる水滴の音が、聞こえていた。 「オレ、いらなかったのかなぁ」  急にはっきりとした声で、露木が呟いた。 「感謝してるって言ってたぞ。お前がいたからやってこれたって」 「きいちゃんは、ホントはひとりでも大丈夫なんだよ」  泣いているのかと思ったけれど、その目は乾いていた。 「オレがいなくても、大丈夫なんだ」  いつもの様子とは違って、あまりに静かで、当たり前のことのように自分の存在を否定するから。  だから、つい、言ってしまったんだと思う。 「俺はいてくれた方がいい」 「なるなる?」 「俺はお前がいたほうが、楽しいよ」 「ありがと……」  溜息をつくように礼を言って、露木はコロンとテーブルの向こうに転がってしまった。  お前は焦った言っていたけど、俺は気が長いんだよ。  もう、ここまで来たら今更だ。  最後まで、つきあうさ。  なあ、お前はこれからどうしたい?  
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