エリカ

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エリカ

あまりの寝心地の悪さに目が覚めた。 「おはようございます、博士」 「…あー、ミラ。おはよう」 僕は腰を押さえながら立ち上がる。 「博士、腰が痛むのですか」 「今までで最悪の寝心地だったよ」 僕はバネが飛び出したソファを蹴飛ばした。 「朝食にしましょう、博士。カエルの香草焼きの用意ができてますよ」 「ああ、ありがとう」 「どうぞ」 ミラが僕に、紫蘇の葉で覆われ木の枝で串刺しになったカエルを手渡した。 「いただきます」 それを一口で口に入れる。 「いかがでしょうか」 「おいしいよ。僕、これ好きなんだ」 「ありがとうございます、博士」 僕は枝に残った肉をかじり取り、その辺に捨てた。 「なあ、やっぱりその『博士』っての、なんとかなんないのかな」 「1度登録された個人情報は、コールセンターに問い合わせて修正する必要があります。コールセンターにお繋ぎしましょうか?」 「……いや、いい」 ミラからは博士と呼ばれているが、実際僕は博士でもなんでもない。たまたま中古で安かったお手伝いアンドロイドのミラを購入したに過ぎず、おおよそ前のオーナーが、オーナー情報を「博士」として登録していたんだろう。 「ミラは、前のオーナーと僕が別人だって事はわかってるんだよな?」 「はい」 「はぁ…、僕にもちゃんと名前があるんだけど。融通が効かないなぁ」 「申し訳ありません」 「ミラが謝る事じゃない」 僕は焚き火に砂をかけ、残った灰を踏み潰した。 「なあ、そういえば前のオーナーはどんな人だったの?」 「前のオーナー情報につきましては、個人情報として保護されていることに加え、中古販売時にそのほとんどが消去されたためお話できません」 「なるほどなぁ」 ミラの手を取り、服の袖をまくってみた。 「……前のオーナーはいい人だったか?」 「それにはお答えできません」 「そうか」 僕は、ミラの傷だらけの腕を隠すように服の袖を戻した。 「本日のバイタル、異常なし。行きましょうか、博士」 「ああ、そうだな」 僕達は、廃屋を後にした。
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