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「…あぁ〜〜」
僕はカウンターにうつ伏せになった。
「5本目です、博士。アルコールの摂取を終了して下さい」
「うぅ〜………ミラぁ〜」
うつ伏せになったまま、空いた瓶をカウンターの向こう側に投げ捨てる。
「この世界、ほんとに僕1人しかいないのかなぁ〜……」
探せど探せど人はいない。あるのは、ついさっきまでそこに人がいた形跡のみ。
「すみません、よくわかりません」
ミラはあくまでロボット。僕の問に対して、機械的な受け答えしかできないんだ。
「……うわあぁぁぁぁ」
自然と涙が溢れてくる。僕は本当に1人なんだ。この世でたった一人の人間になってしまったんだ。
「泣かないで、博士」
僕は6本目の瓶を手に取った。
「博士」
ミラは、僕の手から強引にビールを奪い取った。
「な、なにするんだよミラ!」
「これ以上の摂取は危険です」
「うるさいな!黙っててくれよ!!」
僕は口調を強めてカウンターを叩いた。
「……わかりました」
そう言うとミラは、静かにビールをカウンターに置いた。
「…………ごめん、ミラ」
その瞬間、ミラは瓶を握り潰すように割った。
「なっ……」
「これ以上のアルコール摂取はあなたに急性アルコール中毒などの重篤な症状を引き起こす恐れがあります」
言いながら、ミラはカウンターを飛び越えた。
「私は強引にでも博士を止める必要がありますが、私は人間に暴力を振るうようにプログラムされていません」
ミラは、次々と酒の瓶を地面に叩き付けていく。
「それでも私は強引にあなたを止める必要があります。あなたがなんと言おうとこれ以上のアルコール摂取は認められません」
ミラは、戸棚を地面に引き倒し、ビールのカートンを壁に投げ付けた。
「わかった!もうわかったから!!」
ミラの手が止まる。
「僕が悪かったから……もうやめてくれ……」
僕はうずくまるようにカウンターに伏せた。
「わかりました」
そう言うとミラは、カウンターを回り込み僕の隣の席に座った。
「今日はもう休みましょう。今の状態で外を歩くのは危険です」
「……」
ミラは僕の背中に手を当てた。
「博士」
僕は少しだけ顔を上げ、横目にミラの顔を見た。
「……ミラは、僕の事好き?」
「すみません、よくわかりません」
僕は、カウンターに伏せた。
「……よくわかりませんが、私は博士の隣にいます」
もう一度、顔を上げてミラの顔を見る。
「例えば博士が私の側から去ってしまったら、私は誰に仕えればよいのでしょうか」
「……」
「私の存在意義は無くなってしまいます」
「……」
「だから私は、博士の事を大切に思います」
「ミラ」
僕はゆっくりと体を起こした。
「インターネット回線に繋がらない以上、私は多くの事を知る事ができません。これからも色々な事を教えてくださいね、博士」
ミラは、僕に向かって機械的に笑った。
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