ネメシア

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ネメシア

「デイジーの花が咲いている」 僕は街路の花壇に目を向けた。 「デイジー。…通信圏外の為検索できません。どのような植物なのでしょうか」 「ヒナギクとも言う。キク科の植物で、この季節に花を咲かせるんだ」 花屋でバイトしていた時の事を思い出す。 「原産地はヨーロッパなんだけど、これは日本で夏を越せるように品種改良された種だよ。花言葉は、希望・平和」 「キク科であれば、食用に向きそうですね」 ミラはデイジーを摘み取ろうとする。 「いや、僕刺し身に乗ってるタンポポは食べたこと無いし、食べようとも思った事ないよ」 「そうでしたか。では今後は食用にはいたしません」 そう言って、ミラは立ち上がった。 「丁度いい、そこのテラスで休憩しよう。腹が減った」 「わかりました。昨日手に入れたビスケットにしましょう」 僕は、食後のコーヒーを飲みながら、伸びをした。 「う〜ん、もう少しで街に着くね」 「すみません博士、髪を梳かしていただけませんか?発電ユニットの稼働効率が現在57%です」 「おっと、そうだった」 僕はリュックから櫛を取り出した。 「ありがとうございます」 ミラの綺麗な黒髪は、効率よく太陽光を集めて発電するためのものだ。余程の事がなければ、この太陽光発電システムと、夜間の焚き火の最に行う表皮の熱発電モジュールによる発電で電力量は事足りるらしい。ミラは中古なので少し型が古く、腰にかかるくらいの髪の長さが必要だが、最近のモデルでは短髪の男性型のアンドロイドまであるらしい。 「そういえば、ミラはどうしてミラって名前なんだ?」 他愛もない事を聞いてみた。 「はい。私、ミラこと『家庭用お手伝いアンドロイドMilla Mk-Ⅲ』は、未来に先駆ける新しいアンドロイド、という意味を込め、親しみやすいように、というコンセプトの元『Milla』と名付けられました」 「へえ」 思ったとおりというか、なんというか…。 「Mk-Ⅱまでのモデルでは、アンドロイドへの極度の感情移入を防ぐ為名称変更の機能がありませんでした。しかし、アンドロイドの普及に伴い、Mk-Ⅲ以降のモデルでは名称変更の設定が可能になりました。いかがいたしましょう」 「…いや、いい」 心でも読まれたのか。 「いい名前だ、ミラ」 「ありがとうございます、博士」
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