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第2話 ささみと生ぬるい風
「パパ大丈夫……!?」
窓に向かって棒立ち状態で固まっている父の様子を心配してか、優衣は椅子から飛び降りて駆け寄った。
「あ、う、うん。大丈夫……なのかな。変なの見えちゃったけど」
ガラスを隔てたすぐ向こう側に見えたスライムらしき生物は、すぐに姿を消してしまった。
雫型をギュッと押し潰したような、あるいは玉ねぎのようなシルエット。
青い色したソレを見た瞬間、直樹の脳裏に浮かんだのは『スライム』という単語。
しかも、風で飛ばされてきたぬいぐるみとかではなく、明らかに生きて動いているように見えた。
「変なの、って? なにもいないけどぉ?」
優衣は、両手をベタッと窓ガラスに付けてジーッと外の様子を伺ったが、土と草以外は何も見えず、チェッと残念がっている。
「なになになに? 変なのってなに? もぐもぐ」
今度は歩斗もからあげを頬張りながら2人の元にやってきて、ベタッと窓ガラスに手と顔を付けてジーッと外の様子を伺う。
「闇だよ闇。何も見えない……って、いつもこんなに暗かったっけ?」
小首を傾げる歩斗。
「……確かに暗いな」
と、直樹は眉をひそめた。
この家の庭は……というか、そもそも庭と言ってもギリギリ物干し台をおけるぐらいの広さしかなく、前に住んでいたマンションのベランダと大差ないほどの大きさである。
したがって、すぐそこにはブロック塀があり、その向こう側はもう隣家の外壁と窓があるはずなのだが、直樹の瞳に映る外の景色は、隣家の窓から漏れる明かりの1つもなく、漆黒の闇で覆われていた。
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