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南方向。
つまり、この異世界に転移した涼坂家のリビングから南西の辺りを、優衣とロフニスは横に並んで歩いていた。
オオネズミを倒した場所からしばらく進んでも、しばらく同じような木々の景色が続いていたが、歩きながらずっと2人で会話をしていたので退屈とは無縁だった。
ほぼ優衣が一方的に普段の生活だったり日本にはどんなものがあるといった話をして、ロフニスは聞き役に徹している。
優衣にとっては当たり前の日常でも、ロフニスにとっては日本が異世界であり、その異世界の日常は驚きの連続であった。
「……えっ? 離れた場所に居るのに会話ができるの?」
「そうそう! 昔は線が繋がってないとダメだったみたいだけど、今はもうみんなケータイ持ってるから! って、わたしはまだ買ってもらえないんだけど……お兄ちゃんだけずるい!」
優衣は目の前に歩斗の残像を思い浮かべると、それに向かってピンクゴールドの剣を突き刺しまくった。
「そのケータイっていうのは凄い魔法だなぁ……。あっ、ユイってお兄さんいるんだ?」
「うん。いるよ! ロフニスは?」
「いや、僕は一人っ子だよ。だから羨ましいな」
「そう? そんな大したもんじゃ無いけど……って、ん?」
優衣は突然立ち止まり、目を細めて森の奥の方を凝視した。
「どうかした?」
「うん……いまチラッと見えたような……あっ! あそこあそこ!!」
右斜め前の方へ、まるで指し棒の様に剣先を向ける優衣。
ロフニスは条件反射でそっちの方向へと視線を移した。
「特に何も……あ、アレか!」
「うん! あるでしょあるでしょ!」
「あるある! よし、行ってみよう!」
「おー!!」
二人はグッとテンションを高めながら、何かが見えた場所へと駆け足で向かった。
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