61人が本棚に入れています
本棚に追加
「うわっ!」
「うおっ!」
同時に叫びながら、揃って右方向に体をすらして突進を避ける。
優衣がすかさず体を反転させて後ろを向くと、そこには魔物の背中。
鉄のような前面とは打って変わって、その背中は何とも柔らかそうに見えた。
「ねえ、ロフニス」
小声で囁く。
「なに?」
「もしかしてコイツ、背中が弱点……とかじゃない?」
「あ……そういえば、図鑑には『前面に比べて背面はかなり柔らかい皮膚が露出している』とか書いてあった気がする!」
「おお! じゃあ、いまチャンスじゃん! とりゃー!」
剣を構えたまま、がら空きの背中に向かって駆け出す優衣。
ロフニスも自分の剣を抜いてそれに続く。
が、しかし。
「ベ~カ」
声を出しながら、鉄扉の魔物はまさに回転扉のようにくるんと体を反転させ、カチカチの前面を二人の方に向けた。
「あっ、やばっ!」
すでに攻撃態勢に入っていた優衣は、魔物に向けて振り下ろす剣の勢いを止めることはできなかった。
カツンッ!
部屋に鳴り響く金属音。
「いててててっ!」
ガッチガチの前面部分に剣での攻撃を食らわしてしまった優衣の手は、ジーンとしびれていた。
ダメージを表す煙はまさかの0。
「ユイ、大丈夫!?」
「うん。ちょっとビリビリきてるけど」
優衣は頑張って笑顔を作りながら、サササッと後ずさりしてロフニスの隣に戻った。
「お帰り」
「ただいま」
「さて、どうしたものか?」
ロフニスは、まさに鉄壁を誇る魔物の姿をジッと見据える。
さっきのオオネズミには『11』のダメージを食らわせた優衣の攻撃が全く通用しなかったことで、この魔物の前面に突破口は無いと思い知らされた。
しかも、今の突進により配置が入れ替わり、出口が魔物の後ろに隠れてしまったため、逃げるという選択肢は潰されている。
残されたカードはバトルの勝利のみ。
しかし、どうすればあの鉄壁を崩すことができるのか……
最初のコメントを投稿しよう!