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「ねえ、なんとかしてアイツの背中に攻撃できないかな? チラッと見えたあの後ろの感じなら、いけそうな気がするんだけど」
「うん。僕もそれ考えてた。でさあ、こういうのはどうかな……」
ロフニスはそっと優衣に耳打ちして伝えた。
切羽詰まった状況ゆえに、少し荒くなっていたロフニスの息が耳の中に入ってくすぐったそうにする優衣。
「ぷぷっ……ぷはっ」
「あっ、ごめん!」
「いいよいいよ。って、その作戦良さそう!」
「うん! まあ、すごく単純だけど」
「ははっ、たしかに!」
こんな状況にもかかわらず、二人は楽しそうに笑い合った。
それを羨ましく思って……かどうかは分からないが、鉄扉の魔物はその様子をジッと見つめている。
一見するとどっしり構えているように見えるのだが、ロフニスの見方は違っていた。
この魔物は、卓越した防御力を備えている代わりに攻撃に関しては突進するぐらいしか出来ないんじゃないか、と睨んでいたのだ。
そして、そこにこそ勝機があるんじゃないか……と。
「よし、じゃあ……作戦開始!」
「おー!」
二人は魔物を挑発するようにわざと大声を出し、まずロフニスが剣を構えながら魔物に向かっていく。
「ベカベカ!」
魔物は威嚇するように声を張り上げた。
そして、横綱のようにどっしり構えてロフニスの攻撃を正面から受ける体勢を取っている。
と、次の瞬間、真っ直ぐ駆け寄っていくロフニスが、魔物の手前で突然右に方向転換。
「ベカッ!?」
焦る魔物の隙を突いて背後に回り込もうとするロフニス。
「おおっ!」
剣を構えたままジッと見守っていた優衣が歓声を上げる。
ロフニスが攻撃する姿を優衣が見たのはこれが初めてだったのだが、なかなかやるじゃん、と感心していた。
見事な身のこなしで魔物の側面に回り込んだロフニスは、その勢いのまま弱点と思しき背中に向けて攻撃を……仕掛けようとした瞬間。
クルッ、と扉が90度回転してロフニスの方を向いた。
「くっ!」
ロフニスは一旦立ち止まり、剣を構えたままジリジリと後ずさりせざるを得なくなった。
「ベカベカベカ!」
薄暗い広間に、魔物の高笑いが鳴り響く。
また膠着状態に逆戻り……では無かった。
元の位置から動いていなかった優衣の目には、魔物の横っ腹が映っていたのだ。
「よっしゃー、スキあり!!」
優衣はニヤッと笑いながら、左側から回り込むようにして魔物に向かって駆け出す。
「ベ……ベカベ……!」
魔物はそれに気付かないわけないのだが、いま優衣の攻撃に備えて体を回転させると、こんどはロフニスに背中を向けることになってしまう。
かといって、そのまま動かなければ、優衣の攻撃を背中で食らってしまうことになる……と、完全に詰み状態。
「とりゃ!」
優衣は、がら空きの背中に向けて容赦なく剣を振り下ろした。
「ベカァァァァァァ!!! ベ……ベカ……」
断末魔の叫びとともに、魔物の背中から『23』の煙が飛び出した。
「やったぁ!」
「ナイス!」
ハイテンションで大喜びの優衣とロフニス。
魔物の姿がスーッと消え、代わりに宝箱が姿を現した。
「えっ、銀貨じゃなくて?」
優衣が宝箱に対してツッコミを入れたその時。
ズッチャ、ズッチャ。
シャン、シャン、シャン♪
ズッチャチャ、ズチャチャ。
ギュイン、ギュイン、ギュイイイイン♪
突然、どこからとも無く賑やかな音楽が鳴り響きだした。
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