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「いや、えっと……ごめん、わかんない」
「えー?」
「うん。これが〈魔烈の実〉だってことは確かなんだけどねぇ……。見分け方があったような気がするんだけど、そのやり方まではまだ習ってないというか……ごめんね」
ロフニスは申しわけ無さそうに肩を落としてうなだれた。
「ううん、気にしないで! 使ってみれば分かるんだし!」
優衣はニカッと笑って見せた。
「ありがとう。って、たしかにそうだけど、もし間違って敵にぶつけたのが回復系の魔法の実だったらショックだよね」
「ははっ、たしかに!」
二人は無邪気に笑った。
どんな効果があるか分からない以上、使うリスクが大きいんじゃないかと考え、とりあえず魔烈の実はロフニスが持つことに決めた。
「それじゃ、上に行こうか」
「うん!」
二人は仲良く一緒に階段を上がっていった。
3階も相変わらず同じような作りの部屋。
ただ、2階よりもさらに明るくなり、壁沿いに階段の存在が見当たらなかったので、どうやらここが最上階らしい。
部屋の一番奥に存在感の強い何かが置いてあった。
「なんだろあれ……?」
それを見て首を傾げる優衣。
ぱっと見の印象は"鍋"といった感じであったが、やたら表面に細かい装飾が施されており、そこに火を当てるという風には思えなかった。
「うーん……」
意味ありげな表情を浮かべながら、その鍋のようなものに近づいて行くロフニス。
そのすぐ隣を歩く優衣は、右や左に視線を移して敵の気配が無い事をちゃんと確認していた。
「……ん?」
鍋のようなものをジッと見つめていたロフニスが、何かに気付いたような素振りを見せた。
「なになに? なんか分かった?」
「うん……ここにもさ、あの紋章があるんだよね」
ロフニスはその"鍋"の側面にはめ込まれた円いエンブレムを指差した。
たしかに、1階の床に描かれていたものと同じデザインだった。
「……そっか! これは、僕の家に代々伝わってきたと言われている伝説の錬金釜──うわっ!!」
突然、ヒュッと風を切る音がしたかと思うと、ロフニスがうなり声を上げた。
「えっ、どした……」
優衣が声をかけるや否や、ロフニスはまるで学校の朝礼で校長先生の話が長すぎて貧血で倒れてしまう生徒のように、スーッと地面に倒れ込んでしまった。
「ロフニス!!」
優衣は驚きの声を上げながら、しゃがんで彼の様子を確認した。
どうやら完全に気を失っているようだ。
そして、ふと顔を上げると、目の前に恐ろしい魔物の姿があった。
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