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第25話 塔のボス
その魔物は、今までのヤツらと違ってジッと黙ったまま優衣の姿を見据えていた。
見た目も異質で、三日月のような形の体に手足は無く、小さな二つの目の下に鼻も口も無い。
とにかく、感情の無い目がジッと優衣を捉えて離さなかった。
「ちょ、ちょっとロフニス……!」
優衣はしゃがんだ体勢のまま、気を失って倒れているロフニスの体をそっと揺らしてみたが、全く反応は無い。
その間も、三日月の魔物は相変わらず優衣をジッと睨み付けている。
下の階で遭遇した魔物とは一線を画している雰囲気、そしてここが最上階だという状況も相まって、そこはかとないボス感を醸しだしていた。
このままジッとしていたところで、自分もロフニスのようにやられてしまうのは時間の問題だと悟った優衣は、すくっと立ち上がった。
そして背中の鞘からピンクゴールドの剣を抜き、両手で構える。
「……ムゥン」
三日月の魔物が初めて声を発した。
口は無いが、ニヤリと笑ったような面持ち。
とても強そうで恐ろしげな相手だが、優衣には自信がある。
レベル4と言う名の自信が。
2階の魔物を瞬殺したという手応えがまだ残っている両手で剣の柄をギュッと握り直し、
「うおぉぉ!」
と、気合いを口から吐き出しながら猛然と魔物に向かって駆け出す。
いま、優衣が繰り出せる技は一つ。
三日月の魔物に向かって剣を振り上げ、そして振り下ろすのみ!
そんな単純な攻撃が見事にヒット……せず。
三日月の魔物は、目にも止まらぬ早さで体を左の方へとスライドさせ、余裕の表情で優衣の刃をかわした。
カツンッ!
勢い余った剣先が、床にあたって甲高い悲鳴を上げた。
「いてててっ! もう、なんでよけんの!!」
魔物に向かって威勢良くいちゃもんをつける優衣、その手がジーンとしびる。
床を叩いてしまった衝撃が抜けず、剣を落とさないように持っているのがやっとの状態。
手練れの魔物がそれを見逃すわけもなく、隙ありとばかりに飛びかかって……は来なかった。
意外にも、優衣のいちゃもんが少し効いてるのか、唯一のパーツである目をパチクリとさせるだけ。
とは言え、優衣の危機感は全く消えていない。
ロフニスを倒した時といい、今の動き時といい、この魔物はとにかくもの凄い俊敏性の持ち主で、優衣のノーマル攻撃が当たりそうな気配は全く無かった。
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