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「んんん……なんかないか、なんか……」
どう考えても大ピンチの状況だったが、直樹と香織のどっちに似たのか負けず嫌いな性格の優衣。
諦めるなんてことは露ほども考えること無く、小さな体で何とか打開策を絞りだそうとしていた。
その様子を、対峙している魔物はまさに夜空に浮かぶ三日月のようにどんと構えて伺っている。
まるで、自分を倒せる方法があるなら見せてもらおうか、とでも思っているかのよう。
仮に戦い慣れた戦士だったとしたら、その素振りから格の違いを思い知り、剣を置いたかもしれない。
しかし、初心者剣士だからこそ、優衣の頭は柔軟性に富んでいた。
「そうだ! アレだ!」
優衣はそう言ってニヤッと笑った。
敵の前でそんな顔してそんな言葉を発したら、良策を思いついたことがバレバレ過ぎて、実行に移す前にやられてしまうのがオチなはず。
しかし、あまりにも格が違いすぎるが故に、魔物は油断していた。
優衣がサササッとすり足で倒れたロフニスに近づいて行くのも黙って見ている。
「たしかこの中に……」
優衣はしゃがみ込んでロフニスのポケットに手を突っ込んだ。
ここでロフニスが目を覚ましたりなんかしたら、色んな意味で焦ってしまっただろうが、幸か不幸かまだ気を失ったままだった。
「おっ、あったあった!」
優衣は敵に聞かれようがお構いなしに、何でも口に出すスタイルで、ロフニスがポケットにしまっていた魔烈の実を掴んで取り出した。
剣だけじゃ通用しないなら魔法の力を借りる、というシンプルながら合理的な優衣の打開策。
ただ、あの時なぜロフニスが優衣に渡さずに自分の手元に置いておいたのかと言ったら、その実の中に封じ込められている魔法がどんなものか分からなかったからなのだが……
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