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「ほら、くらえ!」
優衣はためらうことなく魔烈の実を目の前の魔物……ではなく、魔物が立っている床に向かって投げつける。
優衣は少し前に、テレビでコンビニ強盗のニュースを見たのを思い出していた。
逃げる犯人を店員が追いかける際、カラーボールを投げつけて特殊な染料を相手の服や靴の裏に付着させたことが逮捕に繋がった……というアナウンサーの言葉がふと頭に思い浮かんだのだ。
野球のピッチャーならともかく、素人のコントロールなんてたかが知れてるため、動く犯人の体にボールを当てるのは至難の業だから足下の地面を狙うべき、と言っていたことも。
結果、相手が油断していたからか、優衣のコントロールがピッチャー並みだったのかは分からないが、魔烈の実は見事に魔物の足下の床に当たってパンッと弾けた。
モヤッとした青白い煙が、魔物の体を包み込んだ。
「……ム……ムゥン!」
三日月の魔物は、明らかに困惑していた。
怪しげな青白い煙から抜けだそうとしてるのだが、まるでスローモーションのようにゆっくりとした動きだった。
「……ドンヌル! 魔法の正体はドンヌルだ!!」
叫び声の主はロフニス。
どうやら、魔烈の実が弾ける音で目を覚ましたようだ。
「あっ、ロフニス大丈夫!?」
「う、うん、なんとか……って、チャンスだよチャンス! ドンヌルは相手の素早さを奪う魔法だから!」
「えっ、マジ? バッチリすぎるじゃん! よっしゃ!」
優衣は再び両手でピンクゴールドの剣を構えた。
まるで海の中を歩いているようにゆっくりと動く魔物に駆け寄るや否や、思いきり剣を振り下ろす。
「ムゥゥゥゥン!!!」
断末魔の叫び。
そして、飛び出した『23』の煙とともにスーッと姿を消した。
チャリンッ
気持ちの良い音を立てながら床に落ちたのは、1枚の金貨。
「ちぇっ、宝箱じゃなかった」
魔烈の実に味を占めた優衣だったが、愚痴りながらもしっかり金貨を拾う。
「おお! 凄いやユイ!」
背後から聞こえたロフニスの褒め言葉に対し、優衣は振り向きながら「へへへっ」とはにかんで見せた。
「ホント、よくアイツ倒したね。メチャメチャ強そうだったけど……って、おかしいな。だとしたら経験値がたんまり貰えるはずだけど……」
ロフニスが言いかけた所で、
ズッチャ、ズッチャ。
シャン、シャン、シャン♪
ズッチャチャ、ズチャチャ。
ギュイン、ギュイン、ギュイイイイン♪
お馴染みの賑やかな音楽が鳴り響く。
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