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祝いの相手が優衣だと気付いた音楽隊のリーダーは、
「レベル4から6にアップおめでとうございますそれじゃまた~」
と、顔を引きつらせながら一息で言い切ると、メンバーを引き連れてさっさと帰って行ってしまった。
レベルアップして喜ばしい場面にもかかわらず、優衣の顔はすこし不服そう。
「えっ、なんかさっきより適当じゃない? わたしの顔見てめっちゃ怯えてたし」
「ははっ。変なこと言ったから警戒してるんじゃない?」
「えー、わたしってそんな怖い存在なの??」
「うーん……怖いかどうかは分からないけど、強いことは確かだよね」
「えっ、あっ、そう? えへへ」
怖いかどうかは分からないが、単純であることは間違い無かった優衣は、ロフニスの言葉に満足し、レベルアップ隊の件はもう忘れていた。
「そうだ、それそれ! さっきロフニスなんか言いかけてたよね……?」
優衣は、派手な装飾が施された"鍋"に目を向けた。
「うん。それは……伝説の錬金釜! 僕の家に代々伝わる秘宝だよ!」
改めてその姿を確認したロフニスは、確信の表情で言い切った。
「おお、錬金釜!! ……って、なに?」
「えっと、そうだな……もの凄くざっくり言うと、何かを二つ入れると、不思議な力によって別の何かに変わる、っていうアイテムって感じ。これで分かるかな……?」
「うーん……何となくって感じ。なんか凄そうってことは分かったけど」
優衣は錬金釜をマジマジと見つめた。
10歳の女の子であり、ニホンという名の異世界からこのロフミリアにやって来て間も無い優衣に、こちらの世界にある物の真贋を見きわめる目があるわけないのだが、少なくともめちゃくちゃ昔から存在しているような雰囲気は感じ取ることができた。
あとは、本当にこれが錬金釜ってやつかどうか確かめる簡単な方法についても。
「ねえ、じゃあ試しになんか入れてみようよ! そしたらこれが本当にその錬金釜ってやつかどうか分かるし、わたしが錬金釜ってやつがどんなものかどうかもすぐ分かるじゃん!」
どうよこの妙案、とばかりにドヤ顔になる優衣。
ただ、ロフニスは何故か少し渋い表情を浮かべていた。
「いや、残念ながら錬金釜の力を発揮させるためには、この釜の他にあといくつかアイテムが必要なんだよ」
「えー、そーなんだ。じゃあ、そのアイテム探しに行こうよ!」
「うん! ……って言いたいとこなんだけど、具体的にどんなアイテムが必要なのかあやふやだから、一度家に帰って調べてくるよ。たぶん少し時間かかりそうだから、この続きはまた今度、って感じかな」
「ふーん、そっか。まっ、しょうがないねー」
優衣は少し寂しそうな表情を浮かべていたが、何か色々と疲れてることもたしかで、とりあえず家に帰って休むのも良いかなと思った。
「それじゃ、またね~」
階段を降りようとしたその時。
「ちょっと待って! この錬金釜、ここに置きっぱなしって不安なんだけど」
ロフニスの言葉が優衣の足を止めさせた。
「えっ? 大丈夫じゃない、もう魔物は居なさそうだし。っていうか、ロフニスが持って帰るんだって思ってたんだけど」
「うん、まあ本当だったらそれが一番良いんだけどね。実は、ここに来ることも親には内緒で、その上ここで見つけた錬金釜を勝手に持ち出したりなんかしたら怒鳴られるだけじゃすまないんじゃないかなぁ……って」
ロフニスは気まずそうに答えた。
「えっ、もしかしてロフニスんちって……めちゃくちゃ厳しいの?」
優衣は、可愛そうに……といった憐れみにも似た表情を浮かべた。
「いや、そういうんじゃ……って、まあそうかな。うん。だからさ、優衣が持って帰ってくれない?」
「うん。わかった。ウチはそんな厳しくないし……って、ええ!? わたしが持って帰るの?」
「うん」
「この錬金釜ってやつを?」
「うん。お願いしまーす」
「えっ、あ、うん……わかった。って、凄く重そうなんだけどこれ……」
優衣は恐る恐る錬金釜に両手を回して、そっと持ち上げてみた。
結果……驚くほど軽かった。
それは、その錬金釜の素材が異世界の特殊な金属で作られているからなのか……。
いや、レベル6のなせる業っしょ……と、優衣は錬金釜を抱えながらほくそ笑んでいた。
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