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「錬金釜……? って、アイテムとか入れると別の何かに変わるってやつ?」
「そうそう! パパよく知ってるね!」
「ああ、ゲームによく出てくるからな……って、結構大きいけど、これを優衣と歩斗の二人で持ってきたの?」
「ううん。わたし一人でだよ! 冒険行ったの、お兄ちゃんとは別々だったし」
「えっ? これを一人で??」
直樹は改めて錬金釜をじっくり見てみた。
ヘタしたら優衣自身が中に収まりそうなぐらい大きい上に、鉄だかなんだか分からないが素材からして相当重そうに見える。
「とかいって、意外と軽いのか……」
そう呟きながら、直樹はカバンを床に置いて錬金釜に両手をかけた。
「よいしょ……ぐ……ぐぐぐ……あっ、いてててて!!」
意外でも何でも無く、錬金釜は見たまんま思わず腰を痛めそうになるぐらいに重かった。
「ははっ、パパ大丈夫ぅ?」
「お、おう、全然平気だよ……ふぅ。ホントにこれ、優衣が一人で持ってきたの?」
「うん! あっ、でも、家の手前までだけどね! 家の中に入ったら急に重くなっちゃったの」
「そうそう。ユイが持ってきた時はびっくりしたわぁ」
手際よく料理をしていた香織が、おもむろに会話に入って来た。
どうやら、優衣がこの錬金釜を一人で持ってきたというのは紛れもない事実であったようだ。
直樹がさらに具体的に話を訊いてみると、どうやらレベル6になったことがその怪力っぷりと関係しているらしい。
ただし、その力はあくまでも向こうの世界〈ロフミリア〉に限られ、リビングの窓を隔てたこっちの世界では普通の女の子に戻ってしまうようだ。
それならば、錬金釜は窓際に置かれているはずなのだが、なんでキッチンに置かれているかと言うと……
「お釜の置き場所はやっぱりキッチンよね……ってことで、私が運んだの」
香織がこともなげに答えた。
「いや、お釜っていっても錬金釜……って、一人で運んだの?」
「うん。私だって良い大人なんだから、お釜の一つや二つぐらい運ぶのなんて朝飯前よ!」
右手に菜箸、左手にお玉を持った勇者香織は勇ましく答えた。
「朝飯前……ははっ、す、すごいねさすが」
直樹が若干引き気味に笑ったその時。
グウゥ~
昼飯もろくにとらず、働きずくめだった直樹のお腹が高らかに鳴き声を上げた。
「ふふっ、もう出来るから。ハンバーグ!」
「おお! 助かる!」
「わーい! ハンバーグハンバーグ!!」
重さだけじゃ無く錬金釜そのものについてだの、優衣がどうやってレベル6まで上がったのかだの、訊きたいことは山ほどあった。
しかし、それよりも食欲が勝っていた直樹は一刻も早く食事にありつけるようにと、コップやお箸を持ってダイニングテーブルに運んだ。
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