第27話 隠れみのオーブ

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「そっか。まあ細かいことはさておき、とりあえずどうにかしてバッティングしないように出来ないのかな? 例えば、調査団派遣の予定を明日にずらしてもらうとか?」  直樹は、我が家のせいで両国が戦争に発展するなんてことは絶対あってはならないと、痛切に思いながら提案した。  何より、せっかく自分の家のリビングから異世界に旅立てるという、あり得ないほど貴重な現象が起きたのに、それが壊れて欲しくないという思いもまた。   「派遣を明日に伸ばすのは難しそうだけど、時間だけならずらして貰えるかも。ねえ、キミは……」  ユセリは隣に立つ少年の顔を見た。 「ロフニスだよ。僕も、時間を変更して貰える可能性は十分あると思う」 「そう、じゃあロフニス。私はパ……知り合いに頼んで調査団の派遣を昼前ぐらいに変更できるようにして貰うから、そっちはなるべく遅い時間にずらして貰える?」 「オッケー! たぶん、大丈夫だと思う!」  小さな"各国代表"の間で、交渉が成立した。  それを見ていた歩斗と優衣は、 「ユセリすげー、やるな!」 「ロフニスも! なんかすごい!」  と、純粋に賞賛の声を上げていた。  それを見ていた父親の直樹は、自分の子らと異世界の2人の大人っぽさにギャップを感じつつ、なにより自分自身の未熟さに対して苦笑いせざるを得なかった。  なんだかんだ言ってリビングの外に広がっている世界は()()()()()()という感覚だったのだが、目の前の少年と少女の姿、言動を目の当たりにすると、それは決してゲームの世界なんかではなく、現実としてそこにあるリアルなものであることを否応なしに痛感させられる。  と同時に、そうであってくれて良かった、と直樹は心底思っていた。  なぜなら、心のどこかでこのロフミリアという異世界は夢や幻想の類いで、何時間か何日か分からないが、あるとき突然何事も無かったかのように綺麗さっぱり消えて無くなってしまうんじゃないか、という漠然とした不安を抱いていたから。  だからこそ、この世界をリアルに感じられる喜びを抱くのと同時に、戦争なんて物騒なことは絶対に起こしちゃいけないと、やる気をみなぎらせていた。 「それじゃあ、2人とも。我が家のことで申し訳ないけど、時間調整宜しく頼むよ」  頭を下げる直樹に対し、ユセリとロフニスはコクリと頷いて返した。 「本当にありがとう。ただ、もしそれで双方の調査団が鉢合わせせずに済んだとしても、根本的な解決にはなってないと思うんだよね。ウチが勝手に転移して来てしまったのに言える立場じゃないんだけど、調査団……先に来るのはミリゼアの方だよね。そのミリゼア調査団がこの我が家の存在に気付いたとして、一体どうなるのか……」 「それは……たしかにマズいかも。私の国の調査団からしたら、見覚えの無いものということはつまり人間の国ロフミアの仕業だと思うし、ロフミアからしたら魔物の仕業だと思うし……」  ユセリの目に不安の色が滲んだ。  と同時、ロフニスの目が希望の色でキラッと輝く。
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