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「北の大地……って、なんかヤバいんだよね? ポブロトっていう人から聞いたんだけど」
「えっ? ポブロトさんのこと知ってるんですか?」
ロフニスは驚いた顔して直樹に訊いた。
「あ、うん。こっちの世界に来て始めて会ったのが彼だったんだよ」
「へー、ポブロトさんと。……って、横道それちゃってすみません。北の大地はたしかに危険です。ただ、〈隠れみのオーブ〉があるのは、たぶんこの森との境界線付近だったような……ねっ?」
ロフニスは隣のユセリに確認を求めた。
「うん。だったと思う。危険は危険だけど、絶対無理じゃないと思うよ。アユトの弓矢があればね!」
ユセリは歩斗に向かってウインクした。
リップサービスという言葉をまだ知らない歩斗は、素直に「へへっ」と照れながら喜んでいる。
「なるほどね! まあ、どう考えてもこの状況を打破するためにはその〈隠れみのオーブ〉ってのを手に入れるしか無さそうだし、チャレンジする価値は十分あるってことだよな。って、話がゴチャゴチャしてきたからちょっと整理してみようか」
直樹は異世界側のユセリとロフニス、そしてリビング側の歩斗と優衣とささみの全員に向けて語り始めた。
「まず、二つの調査団が鉢合わせしないように、ユセリちゃんとロフニス君にそれぞれの国へ戻ってもらって、調査団の派遣時間をずらしてもらう。それが上手く行けば、ミリゼアの調査団が今日の昼前、ロフレアの調査団が今日の午後にここを調べにやって来る。と言うことは、可能性として最も早く我が家が見つかってしまうのが大体10時頃あたりだろうか。つまり、それまでに北の大地へ行って〈隠れみのオーブ〉を見つけてここに戻ってくる必要があるってわけだ。そして、個人的な話で恐縮だけど、今日は月曜日。つまり仕事に行く必要があるってことで、冒険に出て帰ってくるまでのタイムリミットは……ギリギリ朝7時ってとこかな。それまでに〈隠れみのオーブ〉を見つけて戻ってこないといけない。俺とささみで……」
「えっ? ボクは?」
「わたしは??」
小さな弓使いと小さな剣士は、当たり前のように自分も冒険に出ると思っていたようで、父の呟きに対して即座にクレームを付けた。
「おいおい。いま何時だと思ってるんだよ……」
直樹はリビングの壁掛け時計に目をやると、針は2時半の辺りをさしていた。
親としては、子どもがこんな時間に起きてリビングに居ること自体、看過できることではない。
ただ、その一方で、レベル1の自分とレベル2のささみだけで、危険な北の大地とやらに出向いて無事帰って来ることができるのかという不安も──
「パパとささみだけじゃ無理だよ! ボクの弓矢が無いと!」
「そうだよ! わたしの剣が無いと! レベル6だし!」
「ぎくっ……」
そう言われると、初心者魔法使いの直樹としては言い返す言葉が見つからなかった。
いや、なんとか一つだけ見つけ出した。
「そうだ、2人とも。今日が月曜日ってことは、学校に行かなきゃダメ──」
と言いかけたその時。
「大丈夫。明日は学校の創立記念日でお休みだから」
と、背後から声がした。
直樹が振り向くと、そこにはようやく目を覚まして起きてきた香織が、なぜかドヤ顔で立っていた。
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