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振り向くと、フローリングの板目を優雅に歩く茶トラ猫の姿があった。
「あっ、ささみ~!」
優衣が駆け寄って抱きしめようとすると、涼坂家の愛猫ささみはサッと避けて、スーッと歩斗の方へに歩み寄っていく。
「へへへ、ささみはホント僕の事が好きだなぁ……へへへ」
顔のパーツが落ちそうになるほどデレデレの歩斗は、腰をかがめてささみの背中を撫でた。
「ブー! ささみのバカバカバカぁ~」
口をとがらせ、地団駄を踏んで悔しがる優衣だったが、ささみはお構いなしとばかりに歩斗のなでなで攻撃に対し、気持ちよさそうに目を細めている。
そもそも、箱に入れられて捨てられていたささみを拾って涼坂家に連れてきたのが歩斗だったのだが、その恩義があるのかどうか、とにかく一番懐いていた。
と言っても、歩斗以外の人間に冷たいというわけではなく、歩斗ほどではないが思い出したように甘えてきたりするので、他の3人にとってはむしろそのツンデレっぷりがたまらなかったりもしていた。
「コイツがちゃんとウチの中に居たってことは、さっきのはやっぱり……」
直樹は、しゃがみ込んでささみのアゴ下あたりを指でちょろちょろしながら呟いた。
「スライムだかなんだかわからないけど、とにかく外に出て確認してみようよ!」
歩斗がすくっと立ち上がった。
「賛成! ささみが懐いてくれないから、わたしはそのスライムを見つけて飼うんだ! そう決めたんだ!」
優衣が賛同する。
普段なにかとケンカすることも多い兄妹。
しかし、ここぞという時には息がピッタリ合うことが多く、父である直樹としては喜ばしくもあり、徒党を組まれて困ることもありなのだが、いまこの状況は完全に後者であった。
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