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「ちょ、ちょ、ちょ!! 待って待って!」
慌ててそれを止めるロフニス。
「えっ? なんで? 銀貨ちゃんと持ってるよ?」
「うん、それは良いんだけどね、自販機の品揃えって呼ぶ度に変わるんだ。それって基本はランダムなんだけど、ちょっとした規則性があってね。安全な場所で呼んだ時はそれなりの武器やアイテムしか無くて、反対に危険な場所で呼ぶとかなり良い物が揃ってたりするんだよ。ちなみにいまチケットはこの1枚しか無いからさ、慎重にタイミングを考えて召喚した方が良いかなって」
「へー、そっかぁ……」
優衣はあからさまに肩を落としてがっかりムード。
「なるほどね。でも、この初心者パーティーで行くとしたら、予めなるべく装備を調えて置いた方が良いような気もするけど、どうなのかな?」
RPGで新たな土地に行く前には、必ず経験値稼ぎをしつつお金を貯めて最高の装備を揃える派の直樹がロフニスに訊いた。
「えっと……僕の見立てでは、北の大地が危険な場所とは言え〈隠れみのオーブ〉があるダンジョンの攻略だけなら、ユイたちのパーティーでも問題無くいけるんじゃないのかなって思うんです。実際に行ってみて、厳しそうな雰囲気だと感じた時の切り札としてチケットを使った方が良いし、北の大地で召喚する方が間違い無く自販機の品揃えが圧倒的に良いんじゃないかって」
「そっかそっか。それなら、そうしよう! なんせ、このパーティーは初心者だらけの集まりだからね。ロフニス君、良きアドバイスありがとう!」
「い、いやそれほどでも……ははは……。って、そうだ、紙とペンあります?」
ロフニスは、彼にとって異世界である涼坂家のリビングの奥をチラッと覗き込みながら言った。
「うん、ちょっと待ってて」
すかさず香織がダイニングテーブルの上に置いてあったメモ用紙とペンを持ってくる。
「ありがとうございます! ざっくりですけど、北の大地のダンジョンまでの道のりを書いておきますんで、これを目印にして目指してください」
ロフニスは香織から紙とペンを受け取ると、ササッと地図を書いて返した。
「おお、それは助かる! ありがとうロフニス君!」
「ありがとう!」
「サンキュ!」
「にゃーん!」
「い、いや、それほどでも、ははは」
涼坂家の全員から感謝攻撃を受けたロフニスは、顔を赤らめてはにかんだ。
「じゃあ、急いで国に戻って調査団の件なんとかしてくる! ユイ、頑張ってね!」
「うん! 行ってら~」
手を振る優衣に見送られながら、ロフニスは森の中へと消えて行った。
「よし、ユセリちゃんとロフニス君の頑張りを無駄にしないように、何としても北の大地のダンジョンを攻略して〈隠れみのオーブ〉を手に入れるぞ!」
「おー!」
「おーおー!」
「にゃーん!」
「ふふふ」
かくして、涼坂家パーティーの冒険がはじま──
「あっ、その前にちょっとトイレ行ってくる」
「あっ、わたしも!」
「あっ、僕も!」
「にゃーん!」
「ふふふ」
直樹たちは我先にと争うようにトイレに向かった。
深夜から早朝へと変わり始めるつつある時計の針は、タイムリミットである午前7時を目指して確実に回り続けていた。
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