第29話 経験値争い

1/4
前へ
/201ページ
次へ

第29話 経験値争い

 直樹は、トイレに行くついでに寝室から銀貨、そしてポブロトから貰った(正確に言うと後払いで買った)アイテムが詰まった布袋を取ってきた。  リビングに戻ると、弓矢を持った歩斗、そしてピンクゴールドの剣を手にした優衣がいつでも冒険に行けるとばかりの臨戦態勢で待っていた。   「二人とも、無理はしないようにね」 「はーい!」 「おう!」  母の言葉に元気よく答える子ども達。   「ねえあなた、飲み物とか持って行った方がいいんじゃない?」 「おっ、そうだな」  直樹はキッチンの冷蔵庫の中から水とお茶のペットボトルを取ってアイテム袋の中に入れると、リビングの窓際でやる気満々の子ども達と合流した。 「じゃあママ、留守番よろしく」 「うん。朝ご飯作って待ってるから、みんな頑張って来てね!」 「ほーい! がんばって何とかかんとか持って帰ってくる!!」 「ユイ、隠れみのモウフな!」 「歩斗、隠れみのオーブな」 「にゃーん!」  そんなゆるいノリで親子の冒険旅の幕が開けた。  3人と1匹がリビングから外へと飛び出すと、異世界の森は夜の闇に包まれていた。   「うわっ、まっ暗だ~」 「ふっふっふ。パパに任せなさい」  直樹はアイテム袋の口を開き、中からゴムバンド付きのライトを取りだす。  ポブロトから貰った便利アイテムの1つ……ではなく、元から涼坂家にあったもの。  前に買った防災セットの中にあった記憶を呼び覚まし、直樹が自分で袋の中に入れておいたのだ。 「これをこうして……」  直樹はゴムバンドを頭に装着し、ライトのスイッチを入れた。  小さいながらも明かりは結構強力で、照らす範囲もなかなか広かった。   「おお、すげぇ! 見える、見えるぞ!!」  歩斗は明かりの照らす先へと駆けていった。 「おいおい、一人で行っちゃダメだろって……!」  直樹は急いで小さな背中を追いかけた。 「にゃーん!」  ささみも直樹に続く。 「あっ、待って~。わたしも行く~……んじゃ行ってきまーす!}  優衣は家の中から見守っていた香織に向かって手を振り、クルッと体を反転させて直樹の明かりを目指して走り出した。
/201ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加