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「おっ、そうそう。さすがささみさん。こっちこっち、北はこっちだよな」
しれっと尻尾の後ろをついていく直樹。
「あれ? パパ、こっちの方に行こうとしてなかったっけ?」
痛いところを突こうとする優衣。
「違うよ、最初からささみと同じ方向に行こうとしてたよ! ねえ、パパ。そんな全然違う方なんか行こうとするわけ無いよね?」
助け船を出す歩斗。
「お、おお、してたしてた。パパは方向感覚の鋭さには自信があるからな。ハハッ、ハハハハハ」
乾ききった笑いを夜の森に吐き出しながら、この冒険についてきてくれた優秀過ぎる愛猫に対して心から感謝する直樹。
そんなこんなで涼坂家パーティーは、いたって朗らかに森の中を歩き続けた。
「もっと時間に余裕があれば、北の大地に挑む前にリビングの周辺で弱い敵と戦って経験値稼ぎでもしたいとこなんだけどなぁ……。仕事の時間もあるし、何よりミリゼアの調査団が午前中に来ることを考えたら、とにかく急いで〈隠れみのオーブ〉を手に入れて戻らなきゃならないけど……」
歩きながらつぶやいた直樹の長い独り言が呼び水になったかのように、
ガサゴソガサ
と、近くの草むらが小刻みに揺れた。
「気を付けろ! 何か来るぞ!」
「にゃーん!」
直樹は両手で魔法の杖を構えながら、ささみはヒゲをピーンと伸ばしながら、後ろからついてくる歩斗と優衣に警戒を促す。
すると、草むらからスライムがぴょーんと飛び出してきた。
「あっ、スララス!? ……じゃない。黒いもん」
仲間のスライムと勘違いして近づいて行こうとした歩斗に向かって、名も無き黒スライムは体当たり攻撃を仕掛けてきた。
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