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「歩斗あぶな──」
「とりゃぁぁ!!」
直樹の声を優衣の咆哮がかき消した。
ピンクゴールドの剣を両手で握りしめた優衣が歩斗の前に飛び出し、ズバッと黒スライムに向かって剣を振り下ろした。
「イムゥゥゥl」
スライムの体から『24』の数字煙が飛び出し、断末魔の叫びと共に姿を消して銀貨3枚が地面にポトリと落ちた。
「やりぃぃ!」
ガッツポーズを決める優衣。
娘の剣技に驚く直樹。
「さ、サンキューな」
歩斗は少し照れくさそうな顔を妹に向ける。
「でも、助けられてばかりじゃ全然経験値稼げないから次に敵が出てきた時は──」
ガサゴソガサ……からの別の黒スライム登場。
優衣は条件反射的に剣で攻撃。またもや瞬殺だった。
「にゃーん!」
すごいや……とばかりに小さな剣士を称えるささみ。
しかし、歩斗の顔は見る見る内に不満の赤に染まっていった。
「……おい、ユイばっかりずるいぞ! これじゃ、ボクが全然レベルアップしないじゃんか!」
「え~? わたしはただ、敵が出てきたから倒しただけなのに」
ほのかに兄妹ゲンカの火種がくすぶり始める。
優衣の行動に当然問題は無いが、歩斗の言い分も分からないでもないんだよな……と、レベル1の直樹は頭を悩ませた。
まあでも、タイムリミットが迫った状況において、一番レベルの高い優衣の力でガンガン進んで行くのが正攻法っちゃあ正攻法だよな……と、直樹は考えている中で、さっき魔物の国の少女ユセリが歩斗にしていたアドバイスの件をふと思い出した。
「なあ、歩斗」
「なに……?」
「ユセリって子が言ってたろ。レベルが低い内は回復役に徹しろって。それに、歩斗が持ってるその矢は回復用だとも言っていた。ってことはだ。歩斗はとりあえず攻撃じゃなくて回復で経験値を稼げばいいんじゃないか? たぶん、回復することでも経験値は貰えるはず──」
「おお! そうだったっけ! よっっしゃ、そんじゃ回復しまくるぜぇ!」
歩斗は食い気味に納得して、素直にやる気をみなぎらせた。
そしてしばらく歩くと、またスライムが現れた。
それを優衣が瞬殺。
次に現れた敵を、今度はささみが瞬殺。
次は優衣。
その次はささみ……と、常に瞬殺決着の結果、優衣とささみはそれぞれレベルを1ずつアップさせ、レベルアップ隊に祝って貰っていた。
獲得経験値ゼロの直樹と歩斗は当然相変わらずのレベル1。
自分はともかく、回復役に徹すればいいんじゃないか作戦が全く機能せず、しょんぼり肩を落としてる息子の姿にほんのり罪悪感を覚えた直樹は、プランBに移行する決意を固めた。
「よし、次に敵が現れたら、俺一人で戦うからな。そしたら瞬殺はできないだろうからダメージを食らうことになる。だから回復頼むぞ歩斗!」
「おう、任せて!!」
と、言ったそばから草むらガサゴソガサ。
からの……敵登場!
「えっ……?」
直樹は絶句した。
なぜなら目の前に現れた敵は、スライムのサイズとは比べものにならないほど巨大だったのだ……。
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