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第30話 魔法→突進→回復→魔法
「ちょ、ちょっと、なんで俺が戦うってなった時だけこんな強そうなヤツが……」
直樹はボヤキながら魔法の杖を両手で構える。
目の前に現れた敵は、全身焦げ茶色の毛で覆われたクマのような魔物。
直樹よりも二回りほど大きいサイズで、腕の太さは5倍ぐらいはありそうだった。
「マグゥゥゥ~ウ!」
「……ひゃっ!」
魔物が威嚇するような野太い鳴き声を上げると、直樹は思わず情け無い声を漏らしてしまう。
「パパ頑張って~!」
声援を送る優衣の顔はお気楽そのもの。
レベル6の余裕ってやつだ。
「お、おう。自分でやるって言っちゃったんだからしょうがない……おい、歩斗。パパがやられたらすぐに回復させてくれよ!」
直樹は、すぐ隣で弓を構えてる息子に声をかけた。
「うん! 任せて任せて!」
威勢良く答える歩斗。
その顔は優衣と同じようにニヤニヤ笑っていた。
ったく、命がかかってるんだからしっかり頼むぞ……と、直樹は心の中でもぼやきつつ、意を決して魔法の杖を振り上げた。
目の前の魔物は相変わらずうなり声を上げ続けているものの、攻撃してくる素振りは今のところない。
もしかすると、ロフミリアの魔物は先制攻撃しないって決まりでもあるのだろうか……いやそもそも、単にこの場所がこの魔物の住処だっただけで、そこに踏み込んできた人間に向かって威嚇してるだけなんじゃないか……。
だとしたら、こっちから攻撃するのってどうなんだ……と、直樹は躊躇した。
だが、歩斗のレベルアップのために戦うと約束したことを思い出し、ここで逃げ出すわけにはいかないと魔物の事情には目をつぶることに。
いや、そんなの自分の勝手な想像なだけで単純に襲ってきてるって可能性も十分あるんだから……と、直樹は魔法の杖を強く握り直した。
「と言うわけで、とりゃ!」
直樹が叫びながら魔法の杖を振り下ろすと、その先端から出た火の玉がクマタイプの魔物に向かって一直線に飛んでいく。
「マグ~ウ」
魔物は余裕の表情を浮かべたままその場にドンと構えている。
火の玉は完全にその体を捉えているが、全く避ける気配は見せない。
直樹の放った魔法の火の玉は見事に命中。
「よし!」
直樹は思わずガッツポーズしかけたが、クマ魔物の体から出たのは『1』という数字の煙。
「えっ? 1?」
そう言いながら、直樹は子供達がププッと笑う声が聞こえてしまい、顔をポッと赤くなる。
しかし、恥ずかしがってる余裕は無い。
クマ魔物は先制攻撃されたらこっちも行くよ、とばかりに猛烈な勢いで直樹目がけて突進してきた。
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