第30話 魔法→突進→回復→魔法

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「ちょ、ちょい待って……!」  直樹は情け無い声を上げながらもギリギリの所で身を翻し、体当たり攻撃の直撃は免れた。  がしかし、ほんの少しだけ触れた左肩から『5』の赤い煙がフワッと飛び出す。 「おいおい! ちょっとかすっただけでダメージ5!? っていうか、赤い煙ってことは……!」  ポブロト曰く、赤文字は瀕死状態の証。  突進をもろに食らっていたら間違い無く一発アウトだったかと思うと、直樹は血の気が引いた。  クマの魔物はそれだけじゃ満足できないとばかりに、うなり声を上げながらやる気満々で地面の土を足で掻き、今すぐにでも第二波を繰り出そうする気満々。   「お、おい歩斗! 急いで回復──」  直樹が息子に救護要請を送ろうすると、 「よっしゃきた、回復チャーンス!!」  とっくに弓を構えていた歩斗は何もためらうことなく、父親に向かって矢を放った。   「ちょ、大丈夫なのかこれ──」  直樹は自分から回復してくれと頼んだものの、いざ己めがけて矢が飛んできたらきたで、もし間違ってその矢が普通のやつだとしたら……というネガティブイメージが脳裏をよぎる。  本当に歩斗には弓矢の才能があるのか、放たれた矢は綺麗な放物線を描いて飛んできて、避ける隙など一切無かった。  鋭い矢尻は見事に直樹の胸を貫くと同時にグサッという音……なんかすることなく、スーッとすり抜けて背後の地面に落ちた。  直樹の体から『6』という青色の数字煙。   「青……? ってことは、回復できた……んだよな? よっしゃ、サンキュー歩斗!」 「てへへへへ!」  父親から褒められ、片手で弓を持ったまま照れる歩斗。  HPが回復した時は青、なんて話は聞いてなかったが、もし通常攻撃だとしたら瀕死状態でダメージ6を食らった時点でアウト。  確実に死んでしまっていたはずなので、結果的にそれが回復量を示していることを直樹が身をもって証明した形となった。  とは言え、安心している余裕は無い。   「マグマグゥ~ウ!!」  声高らかに叫ぶクマの魔物は元気そのもの。  今のところ食らったダメージはたったの1。  しかし、対する直樹も俄然やる気をみなぎらせる。  なぜなら、ダメージを受けても歩斗に回復して貰えるという心の余裕が生まれたから。   「とりゃぁ!」  直樹による魔法攻撃。ダメージ1。 「マグゥ~ウ!」  魔物の突進攻撃をギリギリ避ける直樹のダメージはまたもや5。  もちろん赤字だが、すかさず歩斗が回復の弓矢を放ち6回復。   「おお! お兄ちゃんすごい!!」 「へへへへへ!」  妹からも褒められて満面の笑みを浮かべる歩斗。  俺も体を張ってるんだけど……と、コピペの如く魔法攻撃を繰り出す直樹。  突進するクマの魔物。  回復の弓矢を放つ歩斗。  直樹が魔法、魔物が突進、歩斗が回復……と、三者によるループを何度か繰り返し、とあるターンで歩斗が回復したその時だった。
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