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第32話 紫色の大地と炎の競演
直樹たちは、大きな黒い山を目印にして、月明かりに照らされた濃緑の草原をひたすら歩き続けていた。
たまにポツンポツンと木があるぐらいで、とても見晴らしが良い。
迷わず進める反面、敵に見つかって襲われる心配もあったが、視界に魔物の姿は一切無く、直樹がポブロトに会った時に遭遇した空飛ぶドラゴンの姿も見えない。
この世界にやってきて誰も彼もが「北はヤバい」と言ってきただけあって、この辺りにはむしろ魔物すら寄りつかないのかも知れない。
それは自分たちにとって良いことなのかどうなのか……と、心に不安をよぎらせながら歩き続けていた直樹の目が、草原の終わりを捉えた。
「おい、あれ!」
直樹が前方を指差しながら叫ぶ。
続いて、ささみがタッタッタっと走り出し、
「にゃーん、にゃーん!」
何かを訴えかけるように地面の土を前肢でかきむしりだした。
そこには、それまでの草原とは打って変わって草一本も生えておらず、ただただ土あるのみ。
そして、それは非常に特徴的な色をしていた。
「紫色の地面! ロフニスの地図に書いてあったやつ!」
月明かりの下、妖しげに映る土の色を見た優衣が嬉しそうに叫んだ。
直樹は改めて手に持っていた地図に視線を落とす。
『地面が紫色になったら、そこからが北の大地』
ロフニスが書き記した言葉と、目の前の景色を照らし合わせると、直樹はゴクリと唾を飲み込んだ。
いよいよ、ここから北の大地か……。
パッと見、敵の姿は見当たらないものの、今まで以上に気を引き締めて……と、直樹が神妙な面持ちになってるそのすぐ目の前で、
「いえーい! ついたついた~!」
「あと、川があってどーのこーのって書いてあったよね? 早く行こ行こ!!」
「にゃーん!」
歩斗と優衣、そしてささみまでもが、軽やかな足取りで紫色の地面を小走りに進み出す。
「お、おい! ここは北の大地。とってもヤバいって噂の……って、待ってくれー!」
直樹は慎重になってる暇も無く、脳天気な家族の背中を追って走り出した。
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