第3話 魔法の杖のようなもの

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 携帯のライトを懐中電灯代わりにして目の前に向けると、まばらに生える木々が明かりに照らされて姿を現した。 「こりゃ完全にうちの狭い庭なんかじゃないな」  直樹は狐につままれたような顔をして、率直な感想を口からボソッと吐き出した。  ちょっとやそっとの時間じゃ処理しきれないほどの疑問が頭の中で渦巻いていたが、それをちまちま考えている暇は無い。  とにかく、この庭……いや"森"に飛び出して行った我が子たちを探さなければと、落ち葉混じりの土をサンダルで踏みしめながら歩き始めた。 「ったくアイツら、こんなまっ暗な中をなにも持たずに良く進んでいけるな」  田舎暮らしならまだしも、森や山からかけ離れた住宅街で生まれ育った息子と娘のどこに、そんな行動力があったのかと感心する直樹。  変な先入観や固定概念がない分、自由に動くことが出来る子どもの特権ってやつか。  ただ、裏を返せば危機管理能力の欠如だとも言えるよな……と、焦りや不安が加速度的に増していくのに比例して、直樹の歩幅は自然と広くなっていった。  「おーい、歩斗! 優衣!」  叫んでみたものの、その思いは闇の中にむなしく溶けていく。   「っていうかこれ、俺も迷子になってないか……」  直樹はその場に立ち止まり、前後左右を見回し、360度ほぼ同じ景色だと気付いて焦る。  ミイラ取りがミイラに……なんて言葉が脳裏をよぎったその時。
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