第35話 軌道パターンと鉄球ボウヤ

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「うわっ! なんだコイツ、うわっ、うわっ!!」  声を上げる歩斗の前には、大きな鉄球がダムダムと床の上でバウンドしている。  真ん中のバトル部屋で繰り広げられている歩斗の相手はその鉄球……いや、球には目と口が付いており、その顔の部分を正面に向けたまま地面を跳ね続けていた。 「マータマタ! さあ、どう料理してやろうかマータ!」  鉄球タイプの魔物、その名も〈鉄球ボウヤ〉は、その場でドリブルしていたかと思うと、突然歩斗に飛びかかったり、ピンボールのように壁に当たって跳ね返って床に天井に……と、非常にトリッキーな動きを見せていた。 「くそ~……って、とりあえず召喚だ! 出でよ、スララス……って、もしかしてここじゃ呼べないとか!? あのユニギャットみたいなヤツ、結界が張られてるとかなんとかって……」  不安になりながら仲間を呼ぶ歩斗。  すると、その不安を吹き飛ばすかのように、バトル部屋の中に一筋の風が吹き抜けた。 「呼ばれて駆けつけイムイム~!」  ピョコンと現れたスライムを見て、鉄球ボウヤは少し驚いた顔をしていた。 「チッ、仲間を呼びやがったのか……!」 「アユトさんさっきぶりですイム~……って、うわっ! なんか見たこと無い感じの敵!?」  スララスは鉄球ボウヤの姿を見た途端、体をぶるんぶるんと震わせて驚いた。 「おお、スララス来てくれた! このレヒムルってとこ、結界が張られてて他の国の人とか魔物が入れない的な感じで言われてたから」 「スススス、くすぐったいですよぉアユトさん、ススススス」  仲間の登場に嬉しくなった歩斗は思いあまってスララスに抱きついた。 「マッタマッタ、なにイチャついてんだマータ! 召喚したから一瞬焦ったけどただのスライムじゃないかマータ! 瞬殺瞬殺!!」  ずっと地面にドリブルし続けていた鉄球ボウヤは、一旦重心を後ろに乗せ、反動を付けて前方に思いきり飛び出した。  そのターゲットは……スララス! 「マタマタマター!!」 「!? ……あぶなイムっ!!」  雄叫びを上げながら飛んでくる鉄球ボウヤの体当たりを、スララスはギリギリのところで体をすらせて避けた。 「スララス大丈夫!?」 「はイム! なんとか大丈夫ですイム」 「チッ!」  鉄球ボウヤは不機嫌そうに舌打ちしながら、また一定の距離を置いてダムダムとバウンドし始めた。 「よし、それじゃ反撃だ! いけぇスララス!」 「はイムゥゥ!!」  スララスは何歩かピョンピョンと助走したのち、グッと地面を蹴り上げて斜め前に飛び出し、鉄球ボウヤに向かって体当たりを仕掛けた。  しかし、鉄球ボウヤは余裕の笑み。 「くらえイムゥゥ~!」  気合いの入ったスララスの攻撃が見事鉄球ボウヤに命中!  ……しかし、ダメージはわずか2。   「そ、そんなイム……手応えあったのにイムぅぅ……」  肩……()()()()を落とすスララス。  攻撃の手応えはあっただけに、与えたダメージの少なさにショックを受けていた。 「マッタマタ! 落ち込んでる暇は無いマタ! 一気に決着を付けてやるマタ。出でよ、鉄球虫!!」  鉄球ボウヤが高らかに叫ぶと、どこからともなく鉄球の形をした小さな虫が何匹も姿を表した。  まるで、鉄球ボウヤの子供といった風貌の〈鉄球虫〉が横一列の隊列を組み、、地面にバウンドし続ける。 「あのデカいのだけでも強いに、これは……マジピンチ!!」  歩斗は思わずそう叫んでしまった。  そして、バトル部屋にはダムダム……ダムダム……と、不気味なドリブル音が鳴り響いていた。
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