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「くそ! もう何でもいい!!」
半分やけっぱちになった直樹は、袋の中から黄色の玉を取りだした。
かんしゃく玉に似た形状で、クマ魔物とのバトルで使った青玉は『相手のHPを知れる』というものだった。
となると、この黄色玉の効果は一体なんなのか……なんて考えている余裕は無い。
「えいやっ!」
緊迫した状態だったが、直樹はこれを外したらそれこそ何も意味が無い……と黄色玉を握りしめて最大限集中し、狙いを定めて投げつけた。
「なに……!」
突然の行動に一瞬怯んだ父ドラゴンのボディに、黄色玉は見事命中。
すると、父ドラゴンの右後ろ脚がぼんやりと黄色く光輝きはじめた。
「もしかして……!?」
即座に、何かを感じ取った直樹は、魔法の杖の先をその右後ろ脚に向けた。
と、その時。
「だめ、やめてぇぇぇ!!」
突然、タイマン勝負ということで離れた場所で見守っていた母ドラゴンが叫んだ。
「えっ……」
不意を突かれた形となった直樹は、一瞬バランスを崩したせいで魔法の杖の位置がずれ、父ドラゴンを狙っていたはずの火の玉は明後日の方向に飛んで行ってしまった。
「なにするんだ!!」
と母ドラゴンに向かって激昂したのは他でもない、父ドラゴンだった。
「だってあなた……その脚は……」
なんだか分からないが、母ドラゴンは思い詰めた目をしていた。
「えっと……タイマンバトル中なんですけど……」
まさかの夫婦ゲンカ寸前状態に困惑する直樹。
会話の内容からして、黄色く輝いているその脚が弱点であることが何となく分かった。
今ならその右後ろ脚が隙だらけで、魔法の杖を振りかざせば簡単に狙い撃ちできる状況である。
しかし、ドラゴン夫婦のもめ事が勃発し、妙に攻撃しづらい雰囲気なんだけど……と、躊躇する直樹のすぐ横を、何かがシュッと駆け抜けた。
「……にゃーん!!」
と鳴いたのは、もちろんささみ!
母ドラゴンの攻撃を受けて気絶していたささみが目を覚まし、ミニミニドラゴン一家と相対する直樹の姿を見て、自分が助けなければと無心で走り出していたのだ。
ドラゴン夫妻はと言えば、まだ”夫婦タイマンバトル”に夢中で、迫り来るニャンコの存在に全く気付いて居ない。
そして……
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