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第39話 黒マントの少年レムゼ
「ただいまー!」
「ただいま~!」
不幸中の幸いと言うべきか、鍵を掛け忘れた玄関のドアを開け、歩斗と優衣が我先にと競い合うように家の中へとなだれ込んで来た。
学校生活の疲れを愛しの我が家で癒やすため……なわけない。
「今日こそ敵を倒しまくってレベル5になってやる!」
「えっ? お兄ちゃん6年生にもなってまだレベル4ってこと?」
優衣は洗面所でゴシゴシと手洗いしつつ、兄に向かってニヤニヤ笑ってみせた。
「が、学年は関係ねーだろがい! そういうユイはいくつなんだよ!」
手を洗いながら勢いで返してしまい、しまったと顔をしかめる歩斗。
「へへん、それ聞いちゃう? 私はね……まだレベル9。最近あまりアッチに行けなくてさぁ~。伸び悩んでるんだよねぇ~ふふっ」
「……クッ! イヤミか!」
「へへへ~、でもそれ聞いて来たのアユにいからだけどねっ」
石けんを洗い流し、コップに水を入れて余裕の表情でうがいを始める優衣。
「ぐぐぐ……返す言葉がねぇ……!」
歩斗は悔しがりながら、一歩遅れて口に水を含む。
どうやら会話レベルに関しては4と9以上の開きがありそうだ。
洗面所にはガラガラガラ声のユニゾンが響き、兄妹そろってペッと同時に吐き出す。
「つーかさ」
「なに?」
「これからまた“外”に行くのに、うがい手洗い要る??」
「お兄ちゃん、それは無粋ってもんだよ。ロフミリアの人たちや魔物さんたちからしたら、私たちはよそ者なんだからね。ちゃんと清潔にして行くのが礼儀でしょ?」
「ブスイ……? むむむ……」
「って、せっかく久し振りに行けるのに時間がもったいない! おっさき~!!」
優衣は廊下に出て階段を駆け上がり、部屋に入ってランドセルを置きつつピンクゴールドの剣を持ち、あっという間にリビングに下りてきた。
「うわっ、ずりぃ! ちょっ待てよ!!」
歩斗も慌てて階段を駆け上がって子供部屋にランドセルを置く……と、その時。
ベッドの上で丸くなって気持ちよさそうに眠ってる愛猫ささみの姿を見つけた。
「ねえ、一緒に──」
行こう!
と言いかけてブレーキをかける歩斗。
なぜならささみは最近、仕事が忙しく帰りが遅くなる直樹が夜な夜な少しだけ異世界探検するのに付き合っており、昼間は大体昼寝する生活リズムになっているのを知ってるから。
「これと……それと……」
歩斗はつま先立ちで足音を立てないように移動し、物音を立てないように弓矢と魔物召喚チョーカーをゆっくり手に取り、静かに部屋を後にした。
階段を下りてリビングに行くと、既に異世界へ出ていた優衣が窓越しに不安そうな目を向けてきた。
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