第39話 黒マントの少年レムゼ

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 半分涼坂家の南側、少し密集した木々を抜けた所で歩斗の足がピタッと止まった。  ……そう、目の前に見知らぬ塔が姿を現したのだ。 「ん? こんなのあったっけ??」  コンスタントに異世界へ飛び出していた歩斗ですら、今までこの塔の存在に気付いていなかった。 「うーん……怪しいなぁ……!」  不安というよりは、ワクワク感強めの表情で塔に近づいて行く歩斗。  消えた母、謎の塔、その点と点を結びつけないようにする方が難しい。  鉄の扉の前で腕を組み、仁王立ちで何やら考え込む。 「これは……どうしよ!?」  このまますぐに入るべきか。  それとも念のため優衣を呼んでくるべきか。  もちろん、何が起きるか分からない以上、頼れる妹と一緒の方が安全なのは間違い無い。  なのに戸惑う理由はただひとつ……兄としてのプライド。  ついさっき洗面所であんな会話をしたばかりなのに、ここで頼ったりなんかしたら結局また経験値を稼ぐのは妹で、レベルはどんどん水をあけられるばかり。  ここは勇気を振り絞って一人で中へ……と、足を前に出したその時。 「おい」  突然、後ろから声が飛んできた。 「えっ?」  とっさに振り向く歩斗。  そこに居たのは……見知らぬ少年。  背丈は自分と同じぐらい。  真っ黒なマントに身を包み、その顔はやたら蒼白く、そこはかとない薄気味悪さを感じながらも歩斗は「誰?」と聞いてみた。 「はぁ? 失礼なヤツだ。知りたければ名を名乗れ!」 「あ、そうか。ボクの名前はアユト。よろしく」 「フンッ! オレ様はレムゼ。まっ、それを知ったところで……ククク」  謎の少年レムゼは意味ありげな笑みを浮かべた。  なんだコイツ、な気持ちで一杯の歩斗だったが、今は緊急事態。 「ねえ、ちょっと聞いても良い?」 「なんだ?」 「この辺で大人の女の人を見かけなかった? たぶんボクに似た感じだと思うんだけど……いや、よく言われるけどボクとしてはそんなに似てるとか思ったことな──」  無駄な話など聞きたくも無いとばかりに、レムゼは即座に「ああ、見たぜ」と答えた。 「えっ? マジで!?」 「ああ。その中に入ってった」  顔と同じ蒼白い手で塔の扉を指差した。 「おお、ありがとう! ちょっと見てくる!!」  歩斗はペコッと軽く頭を下げながら、体をクルッと反転させて塔の扉を開けると、迷わず中へ足を踏み入れた。  そこは真っ暗。  やっぱり優衣を呼んできた方が良かったか……と後悔しかけたその時。  バタンッ!  もの凄い勢いで扉が閉まる。  その向こうから、微かに「ククク……」という笑い声が聞こえた。
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