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半分涼坂家の南側、少し密集した木々を抜けた所で歩斗の足がピタッと止まった。
……そう、目の前に見知らぬ塔が姿を現したのだ。
「ん? こんなのあったっけ??」
コンスタントに異世界へ飛び出していた歩斗ですら、今までこの塔の存在に気付いていなかった。
「うーん……怪しいなぁ……!」
不安というよりは、ワクワク感強めの表情で塔に近づいて行く歩斗。
消えた母、謎の塔、その点と点を結びつけないようにする方が難しい。
鉄の扉の前で腕を組み、仁王立ちで何やら考え込む。
「これは……どうしよ!?」
このまますぐに入るべきか。
それとも念のため優衣を呼んでくるべきか。
もちろん、何が起きるか分からない以上、頼れる妹と一緒の方が安全なのは間違い無い。
なのに戸惑う理由はただひとつ……兄としてのプライド。
ついさっき洗面所であんな会話をしたばかりなのに、ここで頼ったりなんかしたら結局また経験値を稼ぐのは妹で、レベルはどんどん水をあけられるばかり。
ここは勇気を振り絞って一人で中へ……と、足を前に出したその時。
「おい」
突然、後ろから声が飛んできた。
「えっ?」
とっさに振り向く歩斗。
そこに居たのは……見知らぬ少年。
背丈は自分と同じぐらい。
真っ黒なマントに身を包み、その顔はやたら蒼白く、そこはかとない薄気味悪さを感じながらも歩斗は「誰?」と聞いてみた。
「はぁ? 失礼なヤツだ。知りたければ名を名乗れ!」
「あ、そうか。ボクの名前はアユト。よろしく」
「フンッ! オレ様はレムゼ。まっ、それを知ったところで……ククク」
謎の少年レムゼは意味ありげな笑みを浮かべた。
なんだコイツ、な気持ちで一杯の歩斗だったが、今は緊急事態。
「ねえ、ちょっと聞いても良い?」
「なんだ?」
「この辺で大人の女の人を見かけなかった? たぶんボクに似た感じだと思うんだけど……いや、よく言われるけどボクとしてはそんなに似てるとか思ったことな──」
無駄な話など聞きたくも無いとばかりに、レムゼは即座に「ああ、見たぜ」と答えた。
「えっ? マジで!?」
「ああ。その中に入ってった」
顔と同じ蒼白い手で塔の扉を指差した。
「おお、ありがとう! ちょっと見てくる!!」
歩斗はペコッと軽く頭を下げながら、体をクルッと反転させて塔の扉を開けると、迷わず中へ足を踏み入れた。
そこは真っ暗。
やっぱり優衣を呼んできた方が良かったか……と後悔しかけたその時。
バタンッ!
もの凄い勢いで扉が閉まる。
その向こうから、微かに「ククク……」という笑い声が聞こえた。
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