第3話 魔法の杖のようなもの

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「いてっ! これはもしやミミックか……!? そうだミミック的な何かだ絶対……うう……パパはもうだめだ……歩斗……優衣……あとは任せた……ぐふぉ」  こうして、可愛い息子と娘を残し、父は遠いところへ旅立っ……ってなどいなかった。   「ささみ!」 「ほんとだ! ささみ~!!」  宝箱から飛び出してきたのは他でもない、涼坂家の愛猫ささみだった。 「にゃーん」  なに大袈裟に騒いでるの……と言わんばかりに鳴きながら、ささみは直樹を見上げる。 「……お、おう。ささみだったか。はは、脅かすなよコイツぅ、ははは。まあ、ささみはある意味ウチの宝だからな。そりゃ宝箱から飛び出してくるってわけだ、ははは」  直樹の渇いた笑いが、夜の森に吸い込まれていく。   「パパ! 何か入ってる!!」  歩斗が興奮気味に箱の中を指差した。  直樹は「どれどれ」と中を覗き込もうとしたが暗くてハッキリ見え、ポケットにしまったておいた携帯を取り出し、ライトを付けて箱の中に向けた。 「ん? こ……これは……?」  明かりに照らされて姿を現したのは茶色い物体だった。  形は長細く、ぱっと見の印象は"太い木の枝"。   「なにこれ、なにこれ!」  はしゃぎながら箱の中に手を突っ込もうとする優衣。 「ちょっと待って。危ない物かも知れないからな」  直樹は冷静な口調で娘を制する。 「ええ!? 大丈夫だよ! だって、この中に入ってたのに全然元気にしてるじゃん、ささみほら」  優衣が指差す先には、まるでリビングでくつろいでいるかのようにペロペロと毛づくろいするささみの姿。 「ま、まあ、そう言われればそうだな……よし。じゃあ、パパが取るから、な?」  そう言って頼りがいのある雰囲気を醸しだした直樹だったが、内心ドキドキしながら宝箱の中の何かをそっと握った。  ひんやりとしていて、木の肌を触ったような手触り。  野球のバッドぐらいの太さだが、表面は加工されていない生の木に近い。 「これは……魔法の杖……?」  箱の外に取り出して全体像を見た瞬間、直樹の頭の中にパッと思い浮かんだ言葉がそれだった。
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