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直樹が握っていたのはその茶色い"魔法の杖"の真ん中部分。一方は先細っていて、もう一方は先に向かうほど太くなり、最後はリスの尻尾のようにくるんとカーブを描いていた。
その形はまさしく、ゲームや映画などに出てくる魔法使いが持ってるいるような、いかにも系な魔法の杖。
「本当だ! 魔法使いが持ってるヤツっぽいや!」
直樹に似てファンタジーRPG好きな歩斗は、父のファーストインプレッションに同意。
ゲームはやるものの、ペットを育てたりファッションをコーデしたりするようカジュアル系が好きな優衣は、いまいちピンと来ていない様子だった。
「まあ、魔法の杖っぽいと言うだけで、本当に魔法が使えるわけはないだろうけどな。オモチャにしては良く出来て──」
直樹が言いかけたその時。
ガサゴソガサ!
風も吹いてないのに、近くの草むらが大きく揺れた。
宝箱のそばで毛づくろいしていたささみも、ハッとした表情で音がした方に顔を向けた。
3人と1匹の間に緊張感が走る。
「あっ、ママだよきっと! わたしたちがなかなか帰ってこないから、迎えにきたんだ!」
草むらに向かって無防備に走り出す優衣。
「おい、ちょっと待て!」
そう叫び、杖を持っていない方の腕を伸ばして止めようとする直樹だったが、無情にも握ろうとした娘の手はするりと抜けてしまう。
同時に、草むらから何かが勢いよく飛び出してきた。
「……スライム!」
その何かの一番近くにいた優衣が、その姿を見て叫んだ。
もはや"スライム形"と言っていいほどメジャーな形状は、魔法の杖にはピンと来なかった優衣の脳にも自然とすり込まれていたのだろう。
ただ、突然現れたそのスライムの色は定番の青ではなく、夜の闇から溶け出したかのような黒色だった。
「俺がさっき見たヤツ……とは違う! おい優衣、下がってろ!」
直樹は、黒いスライムにそこはかとない危うさを感じ取り、娘に指示を送った。
「パ……パパぁ……なんか足が動かないよぉ……」
優衣は黒スライムと正対したまま、顔だけなんとか後ろを向いて直樹に悲しげな眼差しを送った。
どうやら、軽いパニック状態に陥ってしまっているようだった。
「なにしてんだよユイ! こうなったらボクが……」
「いや待て」
妹のピンチを救うため、黒スライムに立ち向かおうとする歩斗の体を直樹が制する。
「なんだよパパ! このままじゃユイがやられちゃうよ!」
「大丈夫。なんて言ったってパパにはこれが……!」
直樹は右手に持った木の杖を目の前にかざした。
「おお出た! そうだ、魔法の杖!」
「ふふふ、な? これさえあればあんなスライムの一匹や二匹」
謎の自信をみなぎらせる直樹。
……が、その2秒後。
2つの不確定要素に気付いてしまった。
その杖が本当に、見た目の通り魔法の杖なのか。
そして……
「なあ歩斗、ちなみにこれ、どうやって使えば良いんだろうか?」
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