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グゥゥゥ~
歩斗のお腹の辺りから虫の鳴く声がした。
「やべぇ、急激に腹減ってきた! 早く帰ろ、そしてからあげからあげ!」
歩斗の口から飛び出した禁断の言葉に呼応するかのように、
グゥゥゥ~
グゥ~ウゥ~
と、続けて2匹の虫も鳴き始めた。
「パパもだ!」
優衣が直樹のお腹を指差すと、直樹も負けじと
「おいおい、優衣もだろ!」
と言い返した所で、3人揃って吹きだした。
夜の闇に包まれたミステリアスな森に、少々似つかわしくない爽やかな笑い声が鳴り響く。
「よし、じゃあとにかく戻ろうか……って、どうやって帰ればいいんだこれ!?」
直樹は、360度どこを見ても同じ景色にしか見えないことに愕然とした。
歩いた時間を考えれば、それほど遠くまで来ているわけでは無さそうなのだが、少しでも間違った方向に歩き始めたりなんかしたものなら、瞬く間に完全な迷子になってしまいそうだった。
「たしかこっちの方だったような……」
いかにも適当な方向を指差していそうな歩斗の言葉の信憑性は薄い。
「違うよお兄ちゃん! こっちだよ!!」
優衣が自信満々に指差したのは、歩斗とは真逆の方角。
その間も3人の腹の虫はグゥグゥとなり続け、からあげへの渇望がピークに達しそうになったその時。
「にゃーん!」
3人の目の前に、ピョコンと可愛い茶トラの愛猫が姿を現した。
「ささみ!」
優衣からの愛しさに満ちた声を受け取ると、ささみは3人の顔をチラッと見てから、自信に満ちた足取りで歩き始める。
「すげえ! ささみは帰り道ちゃんと分かってるんだ!」
歩斗が上げた感嘆の声に答えるようにささみが
「にゃーん!」
と鳴いたが、その言葉の意味が「そうだよ!」なのか「そうでも無いけどとりあえず行こうよ!」だったのかは、本人以外知る由も無かった……。
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