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「おいおい、パパが戻ってくるまでに結構食べてたろ? 冷たいこと言うなよなぁ」
「別に他のやつならいいよ! それ、皮のとこがパリッパリな感じでめちゃくちゃ美味しそうだから、最後の最後に食べようとしてたのにぃ!」
歩斗はさらに大きく頬を膨らませた。
しかし、その想いも虚しく、パリ皮からあげはすでに直樹の頬の中に収まってしまっていた。
「ああ、確かに特別美味いなぁこれ。うん」
カリッサクッ、と悪魔的咀嚼音を鳴らしながら、大きく頷く直樹。
「……ううう」
食べ盛りの歩斗にとって、食事は人生の全てと言っても過言では無い。
無情にもずっと狙っていた最高のからあげを父親に奪われ、人生の厳しさに瞳を潤ませていた。
「お兄ちゃん、ほらこれあげるから~。元気だして~」
妹の優衣が、自分の皿にキープしていた一粒のからあげをお箸で持ち上げ、ひょいっと歩斗の皿に置いてあげた。
「ユ、ユイ……マジか……マジでいいのかこれ? ううう……ありがとう……この恩は一生忘れねぇから……」
「もう、アユったら大袈裟ねぇ、ふふふ」
自分の揚げたからあげによっていくつかのドラマが生まれていることに、満更でも無いと微笑む香織。
「あっ、そうだ。ねえねえ、外で何があったのか、ママに教えてよ! ねえ、ねえ、ねえ!」
香織は3人に向かって好奇心に満ちた目を順々に向けた。
「うんとね、真っ黒なやつがわたしに飛びかかってきて……」
「パパが魔法の杖でドーンってやって……」
「そうだ、銀貨3枚手に入れたんだった。どうしようかこれ? 冒険組の3人で分けるか、それともパパの給料と同じように一旦ママに預けて……」
優衣と歩斗と直樹は我先にとばかりに、それぞれ思い思いに森で起きた出来事を口にし始めた。
話の筋が全く見えずにキョトンとする香織だったが、きちんと話したところであまりにも現実離れしてるので、いずれにしてもキョトンとするハメになったのは間違い無いだろう……。
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